第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「お嬢さんが、こんなに長く屋敷にいない期間って、初めてじゃないか」

レオが、ぽつりと告げた。

「確かに、そうですね」

あの人がいない。
それだけで、屋敷は驚くほど静かで――そして、少し寂しい。

「なんか、寂しいよなー」

レオはそう言って空を見上げた。
その言葉に、誰も否定しなかった。

否定できるはずがない。
俺だって、同じことを思っている。

「それにしてもさ、ユウリちゃん。何見てるの?」

空気を和らげるように、ルイが声を上げる。

「これですか?」

「うん」

ルイが指を差す先へ、自然と視線が集まった。

「婚約者候補者たちの名簿と、その情報ですね」

ユウリの淡々とした言葉に、俺たちは思わず身を寄せて覗き込んだ。

「私、この子知ってる!」

ルイが楽しそうに指を差す。

――タンザナイト公爵家。
ローザ・タンザナイト。

「そういえば、ルイさんって公爵家の騎士をしていたことがあるんですよね?」

アレンが目を丸くする。

「そうそう。そのときに、護衛も何度かしたことあるわ」

懐かしむように笑いながら、ルイは続けた。

「昔からディラン殿下のことが大好きでね。幼い頃に“婚約者候補”として決まって、ずっとそのための教育を受けてきたの」

その言葉に、胸の奥がひくりと鳴る。

――候補者。教育。役割。

どれも、あまりに整いすぎた言葉だ。
そしてそれが、お嬢様が今いる場所なのだと、嫌でも理解させられる。

剣を振るう暇もなく、
選ばれるための時間を過ごしている――。