授業が終わり、長い廊下を歩く。
磨かれた床に足音だけが淡々と響き、やけに広く感じられた。
あんなに近くにいたのに、触れることすらできなかった。
ディランは忙しく、私のもとへ来る余裕もない。
それに、あからさまに接触すれば、他の令嬢たちの目がある。
——それくらい、わかっている。
わかっているのに。
他の令嬢と手を取り合って踊るディランを見るのは、正直、胸の奥がざわつく。
嫉妬というほど強い感情ではない。
ただ、ひどく落ち着かない。
仕方のないことだ、と自分に言い聞かせる。
王妃になる覚悟のない私が、何かを言える立場ではないことも理解している。
それでも。
令嬢たちからの無視は相変わらず続き、
すれ違うたびにひそひそと囁かれる陰口は、
もう日常の一部になっていた。
笑顔で受け流すことにも、疲れた。
気づけば——2週間。
思っていた以上に、心は擦り切れていた。
割と。
いや、かなり。
胸の奥に、じわりと重たいものが沈んでいく。
それは、痛みというより“沈殿”に近かった。
静かに、ゆっくり、逃げ場なく積もっていく。
今日だけじゃない。
ずっとだ。
紅茶の渋さも、破られた教科書も、花に混ぜられたガラス片も。
ひとつひとつは小さくても、積み重なれば重さになる。
そして今、その重さが胸の奥で悲鳴をあげる。
——限界だった。
呼吸はできる。
歩ける。
笑える。
“王妃候補”としての顔も、まだ保てる。
でも、心のどこかが、ぽきりと音を立てた気がした。
(……もう、頑張れないかもしれない)
そう思った瞬間、視界が少しだけ滲んだ。
涙ではない。
ただ、疲れがにじみ出ただけ。
それでも、誰にも見せられない。
見せたら、きっと崩れてしまうから。
私は、ぎゅっと唇を結んだ。
磨かれた床に足音だけが淡々と響き、やけに広く感じられた。
あんなに近くにいたのに、触れることすらできなかった。
ディランは忙しく、私のもとへ来る余裕もない。
それに、あからさまに接触すれば、他の令嬢たちの目がある。
——それくらい、わかっている。
わかっているのに。
他の令嬢と手を取り合って踊るディランを見るのは、正直、胸の奥がざわつく。
嫉妬というほど強い感情ではない。
ただ、ひどく落ち着かない。
仕方のないことだ、と自分に言い聞かせる。
王妃になる覚悟のない私が、何かを言える立場ではないことも理解している。
それでも。
令嬢たちからの無視は相変わらず続き、
すれ違うたびにひそひそと囁かれる陰口は、
もう日常の一部になっていた。
笑顔で受け流すことにも、疲れた。
気づけば——2週間。
思っていた以上に、心は擦り切れていた。
割と。
いや、かなり。
胸の奥に、じわりと重たいものが沈んでいく。
それは、痛みというより“沈殿”に近かった。
静かに、ゆっくり、逃げ場なく積もっていく。
今日だけじゃない。
ずっとだ。
紅茶の渋さも、破られた教科書も、花に混ぜられたガラス片も。
ひとつひとつは小さくても、積み重なれば重さになる。
そして今、その重さが胸の奥で悲鳴をあげる。
——限界だった。
呼吸はできる。
歩ける。
笑える。
“王妃候補”としての顔も、まだ保てる。
でも、心のどこかが、ぽきりと音を立てた気がした。
(……もう、頑張れないかもしれない)
そう思った瞬間、視界が少しだけ滲んだ。
涙ではない。
ただ、疲れがにじみ出ただけ。
それでも、誰にも見せられない。
見せたら、きっと崩れてしまうから。
私は、ぎゅっと唇を結んだ。



