曲が、静かに流れ始める。
「お上手ですね」
「ありがとうございます」
レイさんの腕は逞しいのに、力を誇示しない。
触れたところだけ、静かに支えてくれる。
——良い筋肉だ。
努力してきた身体。
合法的に触れているのは、少し得をしている気分になる。
どうせなら、直接触れたいけれど…
そんな不埒なことを思いながらも、
歩幅も呼吸も自然に合わせてくれるから、とても踊りやすかった。
「指先どうされました?」
心配そうにレイさんが見つめる。
ガラス片で切ってしまって、包帯をしたところだ。
「花の授業で、トゲが少々…」
そう言って誤魔化す。
「ティアナ嬢……」
「なんですか?」
「い、いえ……」
レイさんは言いかけて、口を閉じた。
その視線が、ちらりと横へ逸れる。
ディランと、ローゼ。
完璧だった。
動きに迷いがなく、互いを疑う余地もない。
美しい——
その言葉が、ただ真実として胸に落ちた。
これが、長年積み重ねてきた教育の差なのかもしれない。
私も、ダンスは人並みには身につけてきた。
けれど、立ち方が違う。
ローゼは、
“王妃になる覚悟”を持って、あそこに立っている。
ディランを思い、その未来を選ぶ覚悟で。
——では、私は。
同じ場所に立ちながら、
何を選び、何を守ろうとしているのだろう。
胸の奥に浮かんだ問いに、
まだ、答えはなかった。



