第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

社交ダンスの授業。

思わず、遠い目になる。
今の私に一番向いていない。

室内が騒つく。

現れたのは——
眩しいほどの金髪とエメラルドの瞳。

背筋は自然に伸び、歩くだけで空気が整っていく。

「こんにちは」

穏やかな声。
それだけで、張りつめていた空気が一段ほど和らいだ。

ディランだった。

「本日は、私とレイが、ダンスのお相手を務めます」

その言葉に、令嬢たちがざわつく。
期待と落胆、そして探るような視線が入り混じる。

やがて、教育係が一歩前に出た。

「では——ローゼ嬢」

一瞬、場の視線が彼女に集まる。

「そして、ティアナ嬢。前へ」

呼ばれた名に、再びざわめきが走った。
ローゼと、私。

——指名されたのだ。
ディランが、私に一歩近づいたのがわかった。
その気配に、ほんの一瞬だけ心臓が跳ねる。

——けれど。

ローゼが、ぐいっと前に出た。

「ディラン殿下。
お会いしたかったですわ」

甘く高い声。
その視線は、まっすぐに彼だけを映している。

「ありがとう」

ディランは、いつもと変わらない穏やかな笑顔で応えた。
完璧で、隙がない。

その瞬間、私は迷わなかった。

踵を返し、別の方向へ足を進める。
向かった先は——レイさんの前。

「ティアナ嬢。
私がお相手で、よろしいですか?」

眼鏡の奥の瞳が、ほんのわずかに揺れた。


「もちろんです。
よろしくお願いいたします」

そう言って微笑むと、
レイさんはほっとしたように息を吐き、手を差し出した。

私は、その手を迷いなく取った。

——横から、視線を感じる。

ディランだと、わかっていた。
それでも、顔は向けない。

今は、見てはいけない気がしたから。