第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

お茶会の授業中。
今日は、よりによってローゼと同じ卓。

(……いやだな)

そんなことを思いながらも、表情には出さない。
侍女たちが紅茶を配り始め、私の前にもそっとカップが置かれた。

丁寧な所作を意識して、カップを口元へ運ぶ。

――にがっ。

舌の奥がきゅっとしぼむほどの渋み。
明らかに普通じゃない。

(……毒じゃない。けど、これは)

クスクスと笑い声が漏れる。

(最悪)

でも、ここで顔をしかめたら負けだ。
私は何事もなかったように微笑み、
優雅にカップを置いた。

「とても深い味わいですね。ありがとうございます」

ローゼの取り巻きが、一瞬だけ固まる。
その反応を見て、私は心の中で小さく息をついた。

(よし。乗り切った)

そのあとも嫌がらせは続いた。

「ティアナ嬢、10ページから音読してください」

教官の声に従い、教科書を開く。

――破れている。

10ページだけ、綺麗に切り取られていた。

(嘘でしょ……また?)

視線を横に流すと、ローゼの取り巻きが口元を押さえて笑っている。

(……はいはい。そう来るよね)

でも、大丈夫。

この教科書は、もう何度も読み返した。
10ページの内容なら、全部覚えている。
大丈夫…。

私は、破れたページをそっと閉じ、
まるでそこに文字があるかのように、滑らかに読み上げ始めた。

声は落ち着ちつかせ、抑揚も完璧に。
教官が驚いたように目を見開く。

「そこまででいいですよ。…素晴らしい暗唱ですね」

ローゼの取り巻きたちは、今度こそ完全に黙り込んだ。


(ふぅ……よかった。乗り切った)

胸の奥は少し痛む。
でも、誰にも気づかれないように、静かに息を整えた。