第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「午前中は、ここまでになります。
休憩を挟み、午後は刺繍、その後にお茶会のマナーです」

そう告げられた瞬間、肩に入っていた力がふっと抜けた。

……思ったより、消耗している。

(とりあえず、挨拶くらいは……)

そう思い、周囲の令嬢たちに声をかけようと一歩踏み出す。

けれど――

ローゼが、こちらを一切見ずに踵を返した。

その背中を合図にしたかのように、
他の令嬢たちも目を合わせることなく、次々と退室していく。

取り残されたのは、私だけ。

……ああ。

これは、はっきりしている。

(仲良くする気は、ないってことね)

胸の奥が、きゅっと縮む。

貴族社会では、無視は最も静かで、最も残酷な意思表示だ。

「……気にしない、気にしない」

小さく息を吐き、背筋を伸ばす。

ここで俯いたら、それこそ負けだ。

――私は、婚約者候補としてここにいる。

正直王妃になりたくない。
選ばれるかどうかは別として、
伯爵家の名誉のため堂々としていなければならない。

そう自分に言い聞かせ、
一人で自室へと向かった。

けれど。

扉を閉めた瞬間、
胸に溜めていたものが、少しだけ零れ落ちる。

(……やっぱり、しんどい)

王妃教育。
それは、知識や作法だけじゃない。

――人の視線と、悪意に耐えること。

私はそっと窓辺に腰を下ろし、
差し込む光を見つめた。

(ディラン……)

今は、名前を思い浮かべるだけで、
少しだけ心が落ち着くのが悔しい。

……午後も、長くなりそうだ。