第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


「では、始めてください」

合図とともに、ローゼは滑らかに動いた。

扉への歩き方、入室の角度、スカートの扱い、挨拶の深さ。
――どれも完璧。

さすが、長年教育を受けてきた婚約者候補。

(……正直、分が悪い)

けれど。

私は、深く息を吸った。

魅せ方なら、知っている。
誰かの期待に応える笑顔も、相手を立てる距離感も。

一つ一つを、丁寧に。
決して張り合わず、けれど引かず。

並び立ったとき、不思議と、視線がこちらにも集まっているのを感じた。

「……」

ローゼの微笑が、ほんの一瞬だけ、強張る。

「結構です」

教育係の声が響いた。

「両名とも、良い動きでした。
特にティアナ嬢。相手を引き立てる所作が自然ですね」

空気が、ぴんと張りつめる。

ローゼは微笑んだまま、小さく囁いた。

「……随分と、王子殿下に好かれていらっしゃるようで」

その声は、氷のように冷たかった。

(……ああ)

やっぱり。
これは静かな戦場だ。