第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

顔を上げた瞬間、室内の空気が、わずかに揺れた気がした。

――数拍の沈黙。

「……よろしい」

眼鏡の奥から、教育係が私を見つめる。

「急な参加と聞いていましたが、姿勢、発声、礼の角度。いずれも申し分ありません」

その言葉に、周囲の令嬢たちが小さく息をのむ気配がした。

――意外そうな視線。
そして、僅かなざわめき。

ほっと胸を撫で下ろした、その時。

……刺さる。

背中に、氷のような視線。

そっと横目で探ると、一人の令嬢が、感情を殺した微笑みのままこちらを見ていた。
口元は笑っているのに、瞳だけが冷たい。

――歓迎されていない。

直感が、そう告げる。
私は表情を崩さぬまま、静かに、その視線を受け流した。

教育係は一度全員を見渡し、淡々と告げた。

「では次に、立ち居振る舞いの確認に移ります。
二人一組になり、入室から挨拶、着席までの一連の動作を実演してください」

ざわり、と空気が動く。

組み合わせは、その場で指定された。

そして――

「ティアナ嬢。お相手は、ローゼ・タンザナイト嬢です」

……来た。

あの、冷たい視線の主。
タンザナイト公爵家の令嬢、ローゼ。

淡い銀髪を結い上げ、完璧な微笑みを浮かべたまま、こちらへ歩み寄ってくる。

「ご一緒できて光栄ですわ、ティアナ様」

声は柔らかい。
けれど、間合いが近い。

(……この人、わざとだ)

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

私は一歩、品よく距離を取る。