第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

私は、そのまま自室へ戻った。

ジョルジュ陛下の、あの瞳――。
どうして、あんなにも不気味に感じたのだろう。

胸の奥が、まだ微かに震えている。

ディランには悪いけれど、正直、もう逃げ出したい。
帰りたい。

ごろりとベッドに横になる。
いつの間にか、意識が沈んでいった。

コンコン。

扉を叩く音に、はっと目を開ける。
どうやら眠ってしまっていたらしい。

むくっと体を起こし、扉を開ける。

「やあ」

「……ディラン」

金髪と優しいエメラルドの瞳に少し安堵する。

「この前のデート以来だね」

「そうですね」

「寝てたのかい?」

「少しだけ」

「来てくれて、ありがとう」

「いえ……」

「たまに、こうして顔を見に来るから」

「……はい」

「もう、すでに帰りたそうな顔をしてるな」

そう言って、ディランはそっと私の頬に触れた。
その手は温かくて、胸の奥の震えが少しだけ和らぐ。

「……が、がんばります」

「うん」

ディランは小さく笑い、

「じゃあ、明日からよろしくね」

名残惜しそうに踵を返した。
その背中が廊下の向こうに消えるまで、私はしばらく立ち尽くしていた。

扉が閉まると、静けさが戻る。
さっきまでの温もりが、指先にだけ残っていた。