第4部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない


一通り打ち合いを終えると、兄はついに力尽き、その場に大の字になった。
芝の上に倒れ込む音が、妙に情けなく響く。

「情けないですね」

「う、うるさい……。
 お前みたいな体力お化けと一緒にするな」

「失礼ですね。人を化け物みたいに」

「マルク様、どうぞ」

ナナがすっとタオルと水筒を差し出す。
その動きは優雅で、慣れている。

「悪いな」

マルクは胡座をかき、それを受け取った。
息は荒いが、どこか満足げでもある。

「ティアナ様!
 本当に素敵でしたわ!」

ユリアが目を輝かせて駆け寄ってくる。

「まるで――戦場に咲く薔薇のようでしたわ!!」

「あはは……」

どう返せばいいのか分からず、苦笑いしか出てこない。

「ほんとだよね。
 お嬢さま、可愛いし、きれい」

「気が合いますわね!!」

いつの間にか、ユリアとテオが完全に意気投合していた。
……なんだ、この空気。

「実際、お嬢様って体力ありますよね」

赤銅色の髪を揺らしながら、アレンが言う。
新人だった彼も、今ではすっかりこの場に馴染んでいた。

「そう?」

「俺たちと同じ訓練、普通についていけますし」

ロベルトが笑う。
アレンの指導役で、健康的な体格と兄貴分らしい雰囲気を持つ男だ。

「確かに……」

セナが懐かしむように言った。

「第一騎士団から
『どうせできないだろう』って無茶を言われたのに、
全部やってのけてさ。あの時は、相当驚かせてたな」

ロベルトも頷く。

「ああ。あの時の、あの人の顔。今でも覚えてるよ」

「開いた口が塞がらない、って感じでしたね」

セナも静かに頷いた。

「そんなこともあったね……」

思い返すと、胸の奥が少しだけ温かくなる。
あの頃は必死だったけれど、今となっては懐かしい思い出だ。