「すみません! 急用ができたので、今日は野球部をお休みします」
千明先輩にそう伝えると、わたしは誰にも見つからないように、こっそり学校から和真を連れ出し、そのまま家に戻った。
そのときのことなんだけど、ちょっとおかしなことがあったんだよね。
「あの、かず……岡林くんも、今日は体調不良で部活をお休みするそうです」
わたしが和真の欠席も一緒に伝えると、千明先輩は、部員名簿を見ながら首をかしげた。
「岡林くん? うーん……一年? そんな名前の子、いたっけ?」
「……いえ、えーっと……勘違い! そう、野球部とサッカー部、勘違いしてました。すみません」
適当にごまかして帰ってきちゃったんだけど。
千明先輩の持っていた部員名簿に、なぜか和真の名前がなかったんだ。
まるで、和真の存在をまるごと消されてしまったみたい。
あまりの恐ろしさに、背筋がぞくっとする。
もしも、このまま本当に和真が存在しないことになってしまったら……。
「ねえ、和真。いったい誰にやられたの?」
わたしが問いかけても、和真はキョトンとした顔で、首をかしげるばかり。
相変わらず言葉は話せないみたいだし、ひょっとしたら、わたしの言葉も通じていないのかもしれない。
人間のときの記憶すらなくなってしまっているのかも。
「ごめんね。きっと、わたしと関わったせいだよね」
一粒の涙が、ぽろりと和真の頭の上にこぼれ落ちる。
『元気出しなよ』とでも言うように、和真がわたしの頬を伝う涙をペロッとなめてくれる。
「もうっ。和真のことを心配してるんだよ? ねえ、わかってる?」
こんなの、もう、頭も心もぐちゃぐちゃだよ。
泣き笑いしながら和真のことを見おろすと、わたしはあったかくてふわふわしたその小さな体を、ぎゅっと抱きしめた。



