助手席で、ハンドルの横にある彼の手に目がいく。
指先は長く、ひとつひとつの関節がやわらかく動く。
触れられない距離なのに、その指先の動きを追うだけで胸がざわついた。
私は小さく息をつく。
ブランケットを握る私の手と、ハンドルを握る彼の手のあいだには、わずかな距離がある。
触れていないのに、その存在感だけが強く伝わってくる。
視界の端で指先の曲線を追うだけで、胸がじんわり熱くなった。
私は小さく息をつく。
「私も…」
自分でも、何を言おうとしているのか分からないまま言葉がこぼれた。
「私も、椎名さんの本当の顔、知らないです」
「え?俺ですか?」
「はい…」
丁寧に整えた彼のジャケットの端っこを、なんとなくきゅっと握った。
「ずっと、会った時から優しいです」
その言葉に、彼はなにも言わなかった。
マンションの前。
エンジンが静かに止まる。
見慣れたエントランスの灯り。
いつもの景色なのに、今日は少し遠い。
「今日はありがとうございました」
シートベルトを外しながら言うと、運転席で椎名さんが微笑んだ。
「こちらこそ」
彼の声は変わらない。落ち着いていた。
ドアに手をかけて、ふと思う。
このまま降りたら、ただの“送迎”で終わる。
それも悪くない。
でも、今日は色々あった。色々話した。
私は思い切って振り向く。
「…さっきの」
「はい」
「みんな意外と見てる、っていうの」
一瞬だけ、言葉を探した。
彼の瞳が静かにこちらを見て私の言葉を待っている。
「ちゃんと見てる人がいるなら、もう少し強くなれそうです」
言ってから少しだけ後悔する。
踏み込みすぎたような気がしたからだ。
でも、言わなければもっと後悔したと思う。
指先は長く、ひとつひとつの関節がやわらかく動く。
触れられない距離なのに、その指先の動きを追うだけで胸がざわついた。
私は小さく息をつく。
ブランケットを握る私の手と、ハンドルを握る彼の手のあいだには、わずかな距離がある。
触れていないのに、その存在感だけが強く伝わってくる。
視界の端で指先の曲線を追うだけで、胸がじんわり熱くなった。
私は小さく息をつく。
「私も…」
自分でも、何を言おうとしているのか分からないまま言葉がこぼれた。
「私も、椎名さんの本当の顔、知らないです」
「え?俺ですか?」
「はい…」
丁寧に整えた彼のジャケットの端っこを、なんとなくきゅっと握った。
「ずっと、会った時から優しいです」
その言葉に、彼はなにも言わなかった。
マンションの前。
エンジンが静かに止まる。
見慣れたエントランスの灯り。
いつもの景色なのに、今日は少し遠い。
「今日はありがとうございました」
シートベルトを外しながら言うと、運転席で椎名さんが微笑んだ。
「こちらこそ」
彼の声は変わらない。落ち着いていた。
ドアに手をかけて、ふと思う。
このまま降りたら、ただの“送迎”で終わる。
それも悪くない。
でも、今日は色々あった。色々話した。
私は思い切って振り向く。
「…さっきの」
「はい」
「みんな意外と見てる、っていうの」
一瞬だけ、言葉を探した。
彼の瞳が静かにこちらを見て私の言葉を待っている。
「ちゃんと見てる人がいるなら、もう少し強くなれそうです」
言ってから少しだけ後悔する。
踏み込みすぎたような気がしたからだ。
でも、言わなければもっと後悔したと思う。



