恋は手のひらの上で

「あ、はい…すみません」

まだ緊張の残る手の震えだけは消えた。
代わりに、安心感がやってきた。


数字を確認し直し、落ち着いた呼吸で話し出す。

「失礼致しました。初期CPAですが…」

今度は視点も照準も合い、言葉が自然に出た。

会議はそのまま進行する。


ヒールに体重をかけ直し、資料を握り直す。
その瞬間、椎名さんの指が資料の端をそろえるのが見えた。


─────手、きれい。
…だめだ、今は。仕事。


会議は一時間を超えた。

原価率、製造ロット、容器の酸素透過性、防腐設計。
数字が飛び交う。

目まぐるしく濃密な一時間だった。
積み重ねてきたすべてを、詰め込んだ一時間。


最後に黒田さんが息をついた。

「よし。では、こちらでも原価と広告想定を再計算させていただきます。前向きにいきましょう」

彼の厳しい表情も、少し和らぐ。
空気がゆるんだ。


椅子が次々に引かれる音。
人が立ち上がってゆく。


靴音やヒール音が床に響いて、ぞろぞろ出ていく。
私ひとりになり、ようやく肩の力を抜いた。

静かになった部屋で、自分のノートパソコンの電源を落とし、繋いでいたスライドを切る。

そこでまた会議室のドアが開いた。