恋は手のひらの上で

店の外に出ると、夜風が少し冷たい。

通話ボタンを押す。

「もしもし」

『あ、こんばんは』

低くて穏やかな声がすぐに聞こえた。

それだけで、胸の奥が少し熱くなる。

「こんばんは」

『今、大丈夫でした?』

お店の外は、人通りも車通りもそこそこある。
片耳を押さえて、椎名さんの声に集中した。

「はい。今、友達と飲んでて」

『そうでしたか』

少しだけ間がある。

電話越しの沈黙。
でも、不思議と嫌じゃない。

たぶん、彼はなにか言葉を探している。

『今日は少し早く上がれました』

「この時間で?」

さっき、スマホの時間は二十時を過ぎていた。

『まだかかります?』

彼は、たぶん遠慮している。
友達と飲んでいると話したからだ。

「椎名さん、今どこですか?」

『会社を出たところです』

「会いたいです!」

かなり食い気味に言ってしまった。
でも、声を聞いたらもう止められなかった。