恋は手のひらの上で

いま思い出してはいけない、会議室やエレベーターでのあれこれ。

「それは、うん、大丈夫」

なんとか言い切ると、紗英と麻耶は顔を見合せた。

「「じゃあ私たちに愚痴る意味わかんない!」」

ハモるのも、もう芸術レベルだ。
私は苦笑いを浮かべてしまった。


私だって忙しい。
発売後の対応や社内調整で、最近はずっとバタバタしていた。

“忙しい”は恋愛において、会えない言い訳になるのだろうか?


その時、テーブルの上に置いていたスマホが震えた。

仕事の電話かと思ってなんの気なしに画面を見て、はっと息を飲んだ。

─────椎名さんだ。
一瞬、心臓が跳ねた。


紗英がすぐに気づく。

「来た!?」

麻耶も身を乗り出す。

「顔で分かる」

「ちょっと出てくる!」

私はスマホを握りしめて急いで席を立った。