恋は手のひらの上で

こういうところが、私を惑わすことに自覚がないのが困る。
たぶんまた顔に熱が集まっているに違いない。

「そっちの方がすごかったくせに」

言った瞬間、はっとする。
…しまった。

椎名さんが、ぴたりと止まった。

「それは俺もちょっと…加減が分からなくなって」

まるで仕事の話をしているみたいに言っているけれど、絶対に違う。
何の話をしているんだ、この人は。

真面目な声を出すのはやめてほしい。


こんなズレた会話を、誰にも聞かれたくなかった。



二人で会議室を出る。
廊下は、もう少しずつ迫ってくる夜の静かな空気になっていた。


並んで歩く。
でも、会話はない。

さっきまであんなことがあったのに。
椎名さんは、いつも通りの歩き方をしている。

私はその横を歩きながら、視線の置き場に困った。


エレベーターのボタンを押す。
沈黙の待ち時間。


エレベーターが到着して、ドアが開く。

小さな箱に乗り込んで、二人きり。
私は前を向いたまま言った。

「…椎名さん」