恋は手のひらの上で

麻耶の視線が、私と椎名さんを交互に見ている。

椎名さんは、向こうで静かに胸元を整えていた。
さっき私が思いっきり掴んだせいで、見たことがないほどしわになったシャツ。

それを何でもないみたいに指で伸ばす。

そして落ち着いた声で言った。


「お疲れ様です。東央ヘルスケアの椎名です」

いつもの顔。
いつもの声。

とてもじゃないが、私にはできない切り替えだった。


「……なるほど?」

麻耶が、ふっと笑った。意味深すぎる。

「あれ?芽依、顔だいぶ赤くない?」

紗英はまじまじと私を見る。

「えっ」

慌てて否定しようとするけど、声が裏返る。

椎名さんは、そっと移動して静かに資料をまとめ始めていた。
まるで何もなかったみたいに。

…いや。
キスしておいてそれはないでしょう!