恋は手のひらの上で

私はようやくまた彼と目を合わせることができた。
たぶん、落ち着きがないのは私だけだ。
いつまで経っても、私より先を歩いていく。

そんな私を知ってか知らずか、

「じゃあ、ひとつ聞いてもいいですか?」

と伺うように尋ねてきた。

「…はい」

「俺があなたのこと、いつから気になっていたか、分かります?」


そんなの、分かるわけがない。
私は小さく首を振る。

「最近ですか?」

風邪を引いて倒れたあたりなのか、見当もつかなくてそう答えたら、椎名さんは少しだけ笑った。

「最初に、うちの会社に来た日です」

「─────え?」

あまりにも、衝撃的な事実。

「エントランスで、履き慣れないヒールでつまずいていて」

一瞬、思考が止まる。

はるか昔のことに思える、あの日のこと。
今の私はもうローヒールだった。

呆気にとられている私をよそに、椎名さんは淡々と続けた。

「勢いよくつまずいたと思ったら、目の前にいる朝倉課長の背中に気持ちがいいくらいに激突していて」

「わぁぁぁぁ!だめ!だめです!」

思わず顔を覆ってしまった。
見られていたのは知っていたけれど、でも、そんなに鮮明に話さなくても。

私があまりにも面白い反応だったからか、椎名さんの笑い声が聞こえた。

「あの時にね、真っ赤な顔して全力で謝ってたんです。なんて可愛い人だろうって」

恥ずかしい。消え去りたい。
でも、今さりげなく“可愛い”って言った。
それは聞こえた。

「あの日から、目が離せなくなりました」