恋は手のひらの上で

椎名さんが、何か言おうとする。

「……」

一瞬だけ言葉が止まる。

私はその顔を見て、胸の奥が少しだけざわついた。

…だめだ。
このままだと、聞けない気がする。


思わず口を開いたのは、私の方だった。

「椎名さん」

「はい」

少しだけ声が小さくなる。

「どうして、私のこと守ってくれたんですか」

役員会議の時を思い出していた。
あの時、彼ははっきり言ってくれた。

『非常に完成度の高い処方だと評価しています』

その言葉は、私の九ヶ月を全部包んでくれた。


椎名さんは、すぐには答えなかった。

少しだけ首をかしげて、それからほんの少しだけ笑った。

「…理由、か」

やけにゆっくり言うと、私の目を正面から見据えた。

「分かってくれてませんか?」

その言い方が、少しだけ意地悪。でも、どこか優しい。


やばい。心臓がずっとうるさい。
逃げ場はないけれど、とりあえず視線を落とす。

「そうかもしれないって思ってますけど」

声が少しだけ震える。
初めての顔合わせより、承認会議より、役員会議より、はるかに怖い。

「違ったら、怖いんです」


すると椎名さんが、ゆっくり一歩近づく。

「じゃあ、ちゃんと言います」

彼はもう私のすぐそばにいた。

「西野さんのことが好きです」


これ以上ないくらいの、まっすぐさだった。