恋は手のひらの上で

言われていることの意味は分かっている。胸が少しだけざわつく。
それでも、これまで準備してきたことを忘れてはいけない。

なんとか言葉を続ける。

「…この処方は、保湿機能とのバランスを重視しています」

声が震えないように、ゆっくり話す。

「ヒト型セラミド三種による角層バリア補強と、低刺激処方。そのうえで微粒子付着を減らす設計にしています」

また別の役員が口を開く。やはり、視線は鋭い。

「つまり、どれも“ほどほど”ということですね?」


会議室の空気が、少しだけ冷たくなる。

私は言葉を探した。

間違ってはいない。
でも、それだけじゃない。

「…いいえ」

思ったよりも、声は落ち着いていた。

「“ほどほど”ではありません」

役員三人の視線の温度は分からない。
でも、言い返してくると思っていなかったのか、一人だけピクリと動いたのは見えた。


「都市環境に暮らす人が、毎日使い続けられる処方として最適化しています」

自分でも驚くくらい、言葉が出てくる。

「強い成分で一時的な効果を出すより、肌負担を抑えながら長く使える製品を目指しました」


言い終えた瞬間、会議室がまた静かになる。

けれど、腕を組んだ役員が、ゆっくり首を振った。

「コンセプトは分かります。ただ、商品としての“強さ”が見えない。言いたいこと、分かりますかねぇ」

先ほどと同じ、低い声だった。
そして、明らかに皮肉も混じっていた。


重い空気に、ついに言葉が詰まる。

反論したい。
でも、どう言えば伝わるのか、一瞬分からなくなる。

その時だった。