恋は手のひらの上で

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プロジェクターの光が、会議室の壁を白く照らしている。

長いテーブルの向こう側には、役員たちがずらりと並んでいた。


私は緊張しながらも、リモコンを握り直す。

「…以上が、保湿ジェル“UV-02 Urban Shield”の処方概要になります」

説明を終えると、会議室が一瞬静かになった。


その沈黙を破ったのは、中央に座っている役員だった。

「西野さん」

重厚な低い声が落ちる。

「この“微粒子付着抑制ポリマー”ですがね」

ぱんぱん、と資料を指で軽く叩く。
昨夜の椎名さんがやさしく手のひらを置いた音とは正反対の、攻撃的な音。


「都市部の大気汚染粒子の付着を抑える、という説明でしたが」

厳しい表情で、眉を寄せたまま続ける。

「正直に言うと、少し弱いですね」


そう簡単に行くとは思っていなかった。
思っていなかったけれど、こんなに痛い視線を浴びるのはたぶん、初めてだ。

胸の奥が、ひやりとする。

「あくまで“模擬試験”…なんですよね?実環境とは条件が違うじゃないですか」

会議室の視線が、いっせいに私へ向く。

私は一度息を吸った。
逃げ出したくなるような空気だったけれど、それでも口を開く。

「はい。おっしゃる通り、模擬大気環境試験になります」

あらかじめ用意していたスライドへ切り替える。

「ただ、PM2.5相当粒子を用いた試験で、従来処方と比較して付着率を約三十二パーセント低減しています」

説明しながら、グラフを指し示した。

「都市生活者の肌にかかる環境ストレスを軽減する、という意味では有効な処方だと考えています」

別の役員の一人が背もたれに寄りかかって、目を細めて腕を組んだ。

「三十二パーセント、ですか」

小さく鼻を鳴らす。
まるで、たかがそれだけで、とでも言うように。

「化粧品の世界では“効いているように見える数字”はいくらでも作れるんですよ」