恋は手のひらの上で

パソコンの光が彼の顔を照らしている。
いつもより少しだけ力の抜けた表情。

この間は私の体調が悪かったから、ちゃんと見れなかった彼の寝顔。

ネクタイは少し緩んでいて、シャツの襟元が少しだけ開いている。
こんな無防備な顔、初めて見る。

普段はあんなに隙がないのに、この瞬間だけはほろりと鎧を脱いだみたい。


胸の奥が、静かにざわつく。
ゆっくり視線を落とす。

テーブルの上に、無造作に置かれた椎名さんの手。

大きい。
指が長い。
ペンを持つときも、キーボードを打つときも、迷いがない手。

あの日、名刺を受け取った時。
最初に目に入ったのも、この手だった。


私は小さく息を吸う。

…ちょっとだけ。
ほんの、ちょっとだけ。


ここには、私と椎名さんしかいない。

そっと、そっと手を伸ばす。
自分でも驚くくらい、慎重に。

その手の甲に、そっと自分の手を重ねた。


あたたかい。
それだけで、心臓がうるさい。

こんなの、気づかれてないよね。
ばれるわけない。
だって彼は、寝ているんだし。

私は少しだけ指を動かす。
この手に包まれたら、どんなに安心するだろう。