恋は手のひらの上で

これまで何度も役員会議なんかは通してきた彼の言うことだ。絶対に間違いなどないだろう。
説得力がある。

「…頑張ります」

決意を込めて、緊張で震えそうな手をもう片手で包む。

大丈夫、大丈夫、と何度も自分に言い聞かせていると、

「大丈夫ですよ」

と、私の心の中で繰り返していた言葉をそのまま彼が言った。
ちょっと驚いて顔を上げる。

「あなたの説明なら、ちゃんと通ります」


元気づけるわけでもなく、事実だけそこに置く。
いつもそんな彼に助けられてきた。

“大丈夫”というその言葉に、胸の奥が少し温かくなった。



それからまた、私は資料を見直した。

抜けがないか、もっとより良くできる箇所はないか、どうしたら役員の人達としっかり話せるか。


スライド。
グラフ。
処方データ。

パソコンのキーボードの音だけが室内に聞こえる。

さっきまで周囲で残業していた社員さんたちも、そろそろ帰る頃だろうか。

時計を見ると、もうすぐ二十三時だった。
さすがに遅い。


「椎名さん?」

向こうからなにも聞こえてこないな、と名前を呼んだ。

開いたパソコンの画面に隠れて、彼の顔が見えない。
返事もなかった。


不思議に思って立ち上がる。
まだよく見えなくて、彼の座っているところまでそっと近づくと。

椅子にもたれて、目を閉じていた。

─────寝てる?