恋は手のひらの上で

そう促されて、やっと箸を割った。

ぎこちなく麺を持ち上げる。
湯気が顔に当たる。

高橋はそんな私をちらっと見てから、普通の声で言った。

「別に、西野が誰を好きでも、俺には止められないし」

麺をすすりながら続ける。

「まあ、しょうがないよな」

私はなにも言えない。


ふわっとした湯気だけが、私たちを包み込む。

「でもさ、」と高橋は少しだけ寂しそうに笑った。

「一回くらい、俺のこと好きになってくれてもよかったじゃん」


その言い方があまりに軽くて、余計に胸が詰まる。
私は箸を止めてしまった。

高橋はすぐに肩をすくめた。

「冗談だよ。─────ほら、食えよ」


慌てて私もまた箸をすすめる。
餃子の皮がパリパリしていて、思ったよりも美味しかった。

ラーメンをすする音がそこら中から聞こえる。
高橋はもう、間もなく食べ終わりそうだった。

「役員会議終わったら、ラーメンくらいまた付き合ってよ」

最後の一口を食べて、彼はレンゲを置いた。

「仕事仲間だろ」

「…うん」

私はやっと、小さくうなずく。

高橋はもう空になったどんぶりを見ながら、「ごちそうさま」と手を合わせた。

その顔は、思ったよりも普通だった。

胸が痛くなるような顔でもなく、怒っているわけでもない。
ただ少しだけ、いつもより静かなだけ。

私は残りのラーメンをすすりながら思う。

ちゃんと終わったんだ、と。