恋は手のひらの上で

「椎名榛人(しいな はると)です。本日はよろしくお願いします」


─────あ、私の好きな手だ。

その声より先に、私の目は手に吸い寄せられた。

差し出された名刺の白。
指先が長く、関節もごつごつしていない。
爪は短く整えられ、紙を持つ動きも迷いがない。

自然なのに、きれい。
その静かな手の印象が、最初に残った。

慌てて両手で受け取りながら、私は自分の視線を叱った。


だめだ、今日は大事な仕事の初顔合わせだ。


差し出された名刺を受け取る瞬間、室内の視線が一斉に動くのが分かった。

会議室は全面ガラス張り。
午後の光が、長いテーブルの中央をまっすぐ走っている。
都会のビル群が光を反射している。


受け取った名刺を見る。


東央ヘルスケア株式会社
ウェルネス事業本部 商品戦略部 主任
椎名 榛人


主任なのか。思っていたよりも、若いような。

顔を上げると、目の前に柔らかい笑み。


焦げ茶の髪。
緩やかな少し長めの髪は、耳にかかるかかからないかくらいの長さで、前髪も邪魔にならない。

整っているけど固くなく、光を受けるとやわらかく透ける。

背は高くて、黒のスーツが身体の線を強調しない。
線が細く、余白のある体つき。

顔立ちは派手ではないけれど、視線が静かで落ち着いていた。
何歳くらいだろう。私よりは上だろうけど。

笑うと口元だけがやわらかく上がり、場の空気が少し軽くなる、それが印象的だった。