ただそこに愛があるなら

翌日。
サロンでパソコンに向かいながら、絵美梨はチラリと要に目をやる。

いつもと同じように、ひょうひょうと仕事をこなす要の左手首には、夕べ絵美梨が贈った誕生日プレゼントの腕時計がはめられていた。

(早速着けてくれているのね。よく似合ってる。着痩せするタイプなのかしら? スタイルの割りには手首はガッシリしてて……)

じっと要の手を見つめているうちに、海でのことを思い出し、絵美梨は慌てて視線を落とした。

顔が火照って熱くなり、思わず手の甲を頬に当てて冷やす。

(バックハグと頭ポンポンと、あとは、なに? あれはいわゆる、お姫様抱っ……だっ……)

だめー!!とデスクに突っ伏すと、ガタッと要が席から立ち上がった。

「社長、どうされました? どこか具合でも?」
「大丈夫! なんでもないわ。来ないで、動いちゃだめよ」
「はあ……」

その時デスクの外線電話が鳴り、要は素早く応答する。
戸川の秘書からの電話だった。

『今、弊社の社長の戸川が、美容業界に名の知れたメイクアップアーティストの今池(いまいけ)素直(すなお)さんと会食中なのですが、今池さんがそちらのサロンに興味があり、見学したいとのことです。突然のお話で誠に恐縮ですが、少し立ち寄らせていただけないでしょうか?』

今池素直はテレビのバラエティー番組でもオネエキャラでお馴染みで、普段テレビを見ない要でさえも知っている。

要は電話を保留にして絵美梨に事情を説明した。

「サロンに来ていただけるのね? それなら大丈夫よ。今日は私の接客予約はないから」
「かしこまりました。そのように伝えます」

OKの返事をすると、『本当ですか?』と喜ばれ、これから向かうので30分ほどで到着しますと言われて電話を切った。