翌週のサロンの定休日。
要は夕方になると、自宅マンションでスーツに着替えた。
いつもより華やかな色合いのネイビーブルーのネクタイとシルクのチーフを合わせ、ネクタイピンもフォーマルなものを選ぶ。
時間を確かめてから、ロングコートを着て、絵美梨の屋敷に向かった。
「こんばんは、お嬢様」
「こんばんは、お待たせ」
「いいえ」
浜子に見送られて玄関から現れた絵美梨は、髪をハーフアップにして、すみれ色の仕立ての良いAラインコートを着ていた。
普段のパンツスーツと黒いロングコート姿とは、雰囲気もメイクも違い、要はひと目見ただけでドキッとする。
「どうぞ」
いつものように車の後部ドアを開けて促すと、絵美梨はピタリと動きを止めた。
どうしたのかと思っていると、絵美梨はスタスタと車の後ろを通り、反対側の助手席のドアを開ける。
「お、お嬢様?」
要は慌てて駆け寄って、手を差し出した。
「ありがとう」
絵美梨は要の手に自分の手を重ねると、にこっと笑ってから助手席に乗り込んだ。
(え? なぜ助手席に)
要は戸惑いつつ、運転席に回る。
「では、出発いたします」
「はい、お願いします」
いつもなら後ろから聞こえてくる返事が、すぐ左から聞こえ、視界に入る絵美梨の横顔に、心拍数が上がる。
「緋山」
「はっい!」
絵美梨が助手席に座ったことなどあっただろうかと考えているところに、ふいに名前を呼ばれ、思わず肩に力が入ってしまった。
「大阪の支店オープンに合わせて、乃亜ちゃんや香織ちゃんたちも交代でヘルプに行くって言ってくれてるから、お言葉に甘えてお願いしようと思うの。良さそうなマンスリーマンションを調べておいてくれる? アクセスが良くて、セキュリティーもしっかりしているところ。みんなには快適に過ごしてもらわないとね」
「かしこまりました。調べておきます」
「お願いね。それと……」
絵美梨がじっと横顔を見つめてくるのを感じて、要の頬の左半分が熱くなる。
「……なんでしょうか?」
「私も今後、契約や内装工事などであちらに行くことが多くなると思うの。緋山は……どうする?」
「どう……とは? もちろんお嬢様について行きますが」
「そう? でもなにかあった時に、あなたは東京のサロンにいてくれた方がいいのかもしれないと思って」
「お嬢様」
要は気を引きしめ直す。
「サロンは香織さんや京華さんに任せられます。ですが、あなたをお守りするのは私でなければ」
ハンドルを握ったままそう言うと、視界の端で絵美梨がうつむくのが分かった。
「お嬢様?」
「あ、ううん。ありがとう、緋山」
「いいえ、当然ですから」
そうこうしているうちにグランメゾンに到着し、以前と同じ駐車場に車を停める。
助手席に回ってドアを開け、手を差し伸べると、絵美梨は「ありがとう」と微笑んで車を降りた。
そのまま絵美梨を腕に掴まらせて、エントランスへと向かう。
「アプローチも美しいですね。外国に来たみたいです」
「でしょう? それに貸切だからとても静か」
「そうですね」
重厚な扉の前まで来ると、待ち構えていたスタッフが、にこやかにお辞儀をした。
「松島様、お待ちしておりました。またお越しいただき、大変光栄です」
「こちらこそ。会員にしていただき、ありがとうございます」
「末永くよろしくお願いいたします。さあ、中へどうぞ」
促されて、要は絵美梨の手を取り、スッと前に送り出す。
絵美梨が足を踏み入れてから、要も扉をくぐった。
「これは素晴らしい。とても洗練された雰囲気ですね」
「でしょう?」
思わずエントランスホールに目を奪われる要を、絵美梨が得意気に振り返る。
「ゴージャスなのに、すっきりとまとまっていて美しいの。たくさんの調度品が並んでいるけど、どれもセンスが良くて配置のバランスもいいし。1歩足を踏み入れただけで、外国の宮殿に来たみたいな気分になれるわ」
うっとりと微笑む絵美梨に、スタッフは「ありがとうございます」と嬉しそうに頭を下げた。
要は夕方になると、自宅マンションでスーツに着替えた。
いつもより華やかな色合いのネイビーブルーのネクタイとシルクのチーフを合わせ、ネクタイピンもフォーマルなものを選ぶ。
時間を確かめてから、ロングコートを着て、絵美梨の屋敷に向かった。
「こんばんは、お嬢様」
「こんばんは、お待たせ」
「いいえ」
浜子に見送られて玄関から現れた絵美梨は、髪をハーフアップにして、すみれ色の仕立ての良いAラインコートを着ていた。
普段のパンツスーツと黒いロングコート姿とは、雰囲気もメイクも違い、要はひと目見ただけでドキッとする。
「どうぞ」
いつものように車の後部ドアを開けて促すと、絵美梨はピタリと動きを止めた。
どうしたのかと思っていると、絵美梨はスタスタと車の後ろを通り、反対側の助手席のドアを開ける。
「お、お嬢様?」
要は慌てて駆け寄って、手を差し出した。
「ありがとう」
絵美梨は要の手に自分の手を重ねると、にこっと笑ってから助手席に乗り込んだ。
(え? なぜ助手席に)
要は戸惑いつつ、運転席に回る。
「では、出発いたします」
「はい、お願いします」
いつもなら後ろから聞こえてくる返事が、すぐ左から聞こえ、視界に入る絵美梨の横顔に、心拍数が上がる。
「緋山」
「はっい!」
絵美梨が助手席に座ったことなどあっただろうかと考えているところに、ふいに名前を呼ばれ、思わず肩に力が入ってしまった。
「大阪の支店オープンに合わせて、乃亜ちゃんや香織ちゃんたちも交代でヘルプに行くって言ってくれてるから、お言葉に甘えてお願いしようと思うの。良さそうなマンスリーマンションを調べておいてくれる? アクセスが良くて、セキュリティーもしっかりしているところ。みんなには快適に過ごしてもらわないとね」
「かしこまりました。調べておきます」
「お願いね。それと……」
絵美梨がじっと横顔を見つめてくるのを感じて、要の頬の左半分が熱くなる。
「……なんでしょうか?」
「私も今後、契約や内装工事などであちらに行くことが多くなると思うの。緋山は……どうする?」
「どう……とは? もちろんお嬢様について行きますが」
「そう? でもなにかあった時に、あなたは東京のサロンにいてくれた方がいいのかもしれないと思って」
「お嬢様」
要は気を引きしめ直す。
「サロンは香織さんや京華さんに任せられます。ですが、あなたをお守りするのは私でなければ」
ハンドルを握ったままそう言うと、視界の端で絵美梨がうつむくのが分かった。
「お嬢様?」
「あ、ううん。ありがとう、緋山」
「いいえ、当然ですから」
そうこうしているうちにグランメゾンに到着し、以前と同じ駐車場に車を停める。
助手席に回ってドアを開け、手を差し伸べると、絵美梨は「ありがとう」と微笑んで車を降りた。
そのまま絵美梨を腕に掴まらせて、エントランスへと向かう。
「アプローチも美しいですね。外国に来たみたいです」
「でしょう? それに貸切だからとても静か」
「そうですね」
重厚な扉の前まで来ると、待ち構えていたスタッフが、にこやかにお辞儀をした。
「松島様、お待ちしておりました。またお越しいただき、大変光栄です」
「こちらこそ。会員にしていただき、ありがとうございます」
「末永くよろしくお願いいたします。さあ、中へどうぞ」
促されて、要は絵美梨の手を取り、スッと前に送り出す。
絵美梨が足を踏み入れてから、要も扉をくぐった。
「これは素晴らしい。とても洗練された雰囲気ですね」
「でしょう?」
思わずエントランスホールに目を奪われる要を、絵美梨が得意気に振り返る。
「ゴージャスなのに、すっきりとまとまっていて美しいの。たくさんの調度品が並んでいるけど、どれもセンスが良くて配置のバランスもいいし。1歩足を踏み入れただけで、外国の宮殿に来たみたいな気分になれるわ」
うっとりと微笑む絵美梨に、スタッフは「ありがとうございます」と嬉しそうに頭を下げた。



