ただそこに愛があるなら

「お嬢様、お嬢様? 薬を飲めますか?」

要はベッドの端に腰掛けると、そっと絵美梨の肩の下に手を差し入れて、自分の胸に抱き寄せた。

「……かなめ、くん?」

絵美梨がわずかに目を開けて、要をぼんやりと見つめる。

「はい。お嬢様、熱がありますので、お薬を飲んでください」

わずかに開いた唇から錠剤を差し入れ、ミネラルウォーターのペットボトルを口元で傾けると、絵美梨はコクっとひと口飲んだ。

「良かった。あとはゆっくり休んでください。お疲れが出たのだと思います」

ゆっくりと絵美梨の身体を寝かせると、絵美梨は弱々しく要に手を差し出す。
要はその手を優しく握った。

「お嬢様、どうしました?」
「……要くん、ここにいる?」
「はい、ひと晩中そばについております」
「ずっと、ずっと?」
「はい、ひと晩ずっと」
「良かった。約束ね? ずっとずっと、私のそばにいてね。これからも、ずっと……」

はい、と返事をしかけて、え?と要は真顔になる。

「あの、ひと晩、ですよ?」

すると絵美梨は、みるみるうちに涙で目を潤ませた。

「夢の中でもカタブツなの? ちょっとくらい、いいじゃない。現実では叶わないなら、せめて夢の中だけでも」
「お嬢様……」

要は言葉を失う。
絵美梨は目にいっぱい涙を溜めたまま、要を見上げた。

「結婚は、好きな人とするものだって、要くんが言ったの。だから私は、結婚しない」
「え? それは、どういう……?」
「私の好きな人は、私とは結婚出来ないって。冗談でもあり得ないって。だから私は、結婚しないの」
「お嬢様……」

遂に絵美梨は、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「冗談でもあり得ないなら、せめて夢の中だけでも、いいよって、言ってほしかったな」

寂しそうに呟いた絵美梨を、たまらず要は胸にかき抱く。

「お嬢様……すみません」
「ヤダ、要くんのバカ。そんな言葉、聞きたくない。でも、そばにいてほしいの。だから、黙ってて」
「いいえ。あなたのそばにいて、あなたを幸せにしたい。その気持ちは本当です」
「要くん……」

絵美梨が、そっと要の胸に顔をうずめる。

「好きな人と、結ばれたい」
「私もです。お嬢様」
「いつか、叶うといいな。夢の中だけでも……」

呟くようにそう言って、絵美梨はすうっと眠りに落ちていく。
要は絵美梨の額にそっと優しく口づけた。