ただそこに愛があるなら

夕食はホテルのフレンチを楽しみ、部屋に戻ると、絵美梨は早速レポートをまとめる。

「百聞は一見に如かずね。東京で想像していたものが、ここに来てみると全く違うものに見えてきたわ。立地やサロンの内装、ドレスやヘアメイクのイメージも、忘れないうちに固めておかないと」

カタカタとパソコンに向かう絵美梨は、時間を忘れて集中している。

「お嬢様、そろそろお休みください。明日も名古屋に立ち寄るのですから」

深夜1時を回り、さすがにこれ以上はと、要は声をかけた。

「そうね。続きは明日の移動中にするわ」

絵美梨はパソコンをシャットダウンして立ち上がる。
次の瞬間、ふっと目を閉じ、絵美梨は膝からくずおれそうになった。

「お嬢様!」

すかさず要が抱き留めたが、絵美梨はぐったりと目を閉じたままだ。

額に手を当ててみると、明らかに熱があった。

要はすぐさま絵美梨を抱き上げて、2つあるうちの広い方の寝室に運ぶ。

「お嬢様、聞こえますか?」

ベッドに横たえると、絵美梨は苦しそうに荒い息を繰り返すばかりだった。

額にはじわりと汗が浮かんでいる。

要が内線で氷水と体温計を頼むと、しばらくして支配人が届けに現れた。

「緋山様、お嬢様がどうかなさいましたか?」
「立ち上がった拍子に急に倒れられました。恐らく過労だと思います」

熱を測ると、37度8分ある。

「どうしましょう、病院にお連れしますか?」

心配そうに尋ねる支配人に、要は首を振った。

「今はとにかくこのままゆっくり寝かせましょう。明日の朝になってもまだ熱が高ければ、病院に行きます」
「かしこまりました」

要はタオルを氷水に浸して固く絞り、絵美梨の額にそっと載せた。

ふう、と絵美梨が身体の力を抜く。

「お嬢様の常備薬を持ち歩いていますので、あとで飲ませて様子を見ます」
「承知しました。私も今夜はフロントに控えておりますので、いつでもご連絡ください」

そう言って、支配人は部屋を出て行った。