ただそこに愛があるなら

その日から絵美梨は、食事の時間もままならないほど忙しさを増す。

毎朝要が屋敷に迎えに行くと、ハイヒールで颯爽と現れる絵美梨は、いつの間にかスカートを履かなくなり、パンツスーツで髪を1つに束ねているのがお決まりのスタイルになった。

「緋山、出張に行くから手配をお願い。大阪に1泊して、名古屋に立ち寄ってから帰ります」
「かしこまりました。1泊2日ですね。始発と最終の新幹線、宿泊は大阪の松島グループのホテルでよろしいですか?」
「ええ、お願い。日程調整は任せるわ」
「承知しました」

サロンに着くと、要は早速出張の手配をする。

翌週のサロンの定休日に合わせて、二人で大阪へと向かうことになった。

「おはようございます、社長」

当日の朝、要は屋敷で絵美梨を出迎える。
手配したタクシーも、門の外に既に到着していた。

「おはよう、緋山」
「お荷物をお預かりします」
「ありがとう」

相変わらず絵美梨はパンツスーツ姿で、その上に黒のロングコートを着ていた。

全く隙を見せず、キリッとした表情の絵美梨は、そういえば楽しそうに笑うことがなくなったと要は思う。

東京駅へと向かうタクシーの中でも、膝に載せたノートパソコンを、真剣な表情で操作していた。

「社長、コーヒーをどうぞ」

新幹線の中で要は、ホットの缶コーヒーを絵美梨のテーブルに載せる。

「ありがとう。大阪に着いたらすぐにホテルに向かうわ。そのままホテルのブライダルデスクとヘアサロンを視察して、マネージャーからヒアリングさせてもらいます」
「かしこまりました。伝えておきます」
「その後は、関西で有名なサロン片っ端から見て回るわよ」
「かしこまりました。ピックアップしておきます」
「あと、おいしいたこ焼き屋さんも」
「か……しこまりました。ピックアップしておきます」

表情を崩さずパソコンのキーボードを打つ絵美梨に、要も真顔でたこ焼き屋を検索した。