ただそこに愛があるなら

有名な神社とは違い、小さな境内には、人の姿もまばらだった。

要と絵美梨は、身を清めてから参拝する。

「まあ、松島のお嬢様」

絵美梨を子どもの頃から知る近所の人に声をかけられ、絵美梨もにこやかに挨拶した。

「絵美梨お嬢様は、本当にお綺麗ねぇ」

ため息混じりの感嘆の声が聞こえてきて、要は絵美梨の後ろに下がる。

まるで絵美梨だけが神聖な光に包まれているように、輝かしく見えた。

神社をあとにすると、二人は黙ったまま帰路につく。

しばらくすると、絵美梨がふいに立ち止まった。

「どうかなさいましたか? お嬢様」
「ええ、あの。少し公園に寄ってもいいかしら?」
「公園、ですか? 構いませんが、お風邪を召されませんように」
「大丈夫よ」

二人は、子どもの頃によく遊んだ公園に向かう。
何年ぶりだろう。
記憶の中では大きかった公園が、こうしてみると案外狭く、遊具も小さく感じられた。

「懐かしいわね」

絵美梨は頬を緩めて公園を見渡した。

「お嬢様、どうぞ」

要はハンカチを取り出してベンチに広げ、絵美梨を促す。

「今、温かい飲み物を買ってまいります」
「ありがとう」

絵美梨の手を支えて座らせると、自動販売機で甘酒を買って戻った。

誰もいない公園を見ながら、二人静かに甘酒を飲む。

要は、元気に駆け回る幼い絵美梨の姿が、すぐ目の前に現れるような気がした。

「ねえ、緋山」
「はい」
「もっと別の形であなたと出逢っていれば、私たちの関係は違っていたのかしら」

前を見たまま、呟くようにそう言う絵美梨の横顔を、要はじっと見つめる。

「大人になった今、あなたと初めて会って、あなたは私の素性も知らないの。そしたらあなたは私のことを、他の人と同じようにごく普通の女性として見てくれたかしら。私があなたを好きだと言ったら、交際を考えてくれたと思う? 断るにしても、もっと別の返事をするのでしょうね」
「お嬢様……」

なんと答えていいのか分からず、要は口を閉ざす。

「なんて、そんなことをあれこれ考えても仕方ないわね」

絵美梨は視線を落として寂しそうに笑ってから、顔を上げた。

「そろそろ帰りましょうか。浜子さんが心配するわ」
「そうですね」

要は立ち上がると、絵美梨の手を取る。
言葉に出来ない分、繋いだ手をキュッと優しく握った。