ただそこに愛があるなら

「では改めて。要、退院おめでとう」

絵美梨の父、幸一郎に続いて、絵美梨も「おめでとう」とグラスを掲げる。

「ありがとうございます、旦那様、お嬢様」
「礼を言うのはこちらの方だ。要、よくぞ絵美梨を守ってくれた。怪我を負わせてしまって悪かったな」
「いえ、とんでもない。お嬢様がご無事でなによりでした」

絵美梨も改まって頭を下げた。

「緋山、本当にありがとう。私がわがままを言ったばかりに、あなたが怪我を負うことになってしまって、心から反省しています」

いいえ、と要は穏やかに首を振る。

「わがままなんかではありません。お嬢様は、人として大切なことを忘れたくないと、敢えて普通の生活に身を置こうとされます。皆と同じ感覚を失くしたくないと、サロンのスタッフとも垣根を作らず打ち解けて接していらっしゃいます。そんなお嬢様だからこそ、私はあなたを尊敬し、この身をかけてお守りしようと思えるのです。お嬢様、どうぞこれからも、あなたの心のままに生きてください。私が必ずそばで、なにがあってもお守りいたしますから」
「緋山……」

絵美梨は目を潤ませて言葉に詰まる。
幸一郎もしんみりと口を開いた。

「要、絵美梨には誰よりもお前が必要だ。だが要も、緋山家の大事なひとり息子。いずれは両親に孫を抱かせてやらなければ。その為にも、もっとプライベートの時間を取りなさい。自分の幸せを一番に考えるのだぞ」

すると黙って聞いていた要の母が顔を上げた。

「旦那様。お言葉ですが、緋山家の幸せは松島の皆様と共にあります。絵美梨お嬢様の幸せを見届けることが、私たちの幸せなのです」

そうですとも、と要の父も頷く。

「我々をそばに置いてくださって、こんなふうに気遣っていただいて……。少しでもお役に立てるよう、感謝の気持ちを込めてこれからも尽くしてまいります」

浜子も同意するように何度も頷いた。

「みんな、ありがとう。母を亡くした絵美梨がこんなにも大きく成長出来たのは、みんなのおかげだ。どうかこれからも、私と絵美梨をよろしく頼む」
「はい、もちろんですとも」

互いに笑顔で頷き合い、美味しい食事を楽しんだ。