ただそこに愛があるなら

「お嬢様、もうお帰りください」

ベッドの横の椅子に座って荷物を整理していた絵美梨に声をかけるが、返事が返ってこない。

「お嬢様?」

よく見ると、絵美梨は要の着替えを手にしたまま、ウトウトとまどろんでいた。

(こんなに疲れるまで、俺の為に……)

要は手を伸ばすと、そっと絵美梨の肩を抱き寄せる。

絵美梨はベッドの端に頬を伏せて、そのまま寝入った。

すぐ目の前の絵美梨のきれいな横顔に、要は思わず見惚れる。

スッと通った鼻筋と、長いまつ毛。
滑らかで白い肌に、ほんの少し開いた艷やかな唇。

(いつの間にこんなにきれいな大人の女性になったのだろう)

ずっとずっと、守るべき小さな女の子だった絵美梨。
いつも笑顔でいてほしい。
母を亡くした寂しさを、少しでも癒やしたい。
そう思い、常にそばで見守ってきた。

「要くんのバカバカ!」

高校生だった絵美梨にそう言われた時は、心底胸が傷んだ。

「お嬢様じゃない! 私は絵美梨で、あなたは要くんなの!」

あの時の絵美梨の言葉と涙は、今でも鮮明に覚えている。

(お嬢様が涙を見せたのは、あの時が最後……。いや、違う。夕べの夢の中でか)

そして背中を斬られた時の悲痛な「要くん!」という叫び声。

(何年ぶりだろう? お嬢様に名前で呼んでもらったのは)

今日もたくさん「要くん」と呼んでくれた。
まるで少女の頃のように、あどけない表情で。

要はそっと絵美梨の髪をなでる。

(どうか幸せになってください。あなたは誰よりも幸せになるべき人です。すてきな恋愛をして、心から愛されて、ずっとずっと、一生大切に守ってもらってくださいね)

心からそう願った。