ただそこに愛があるなら

要の母が花瓶を手に戻って来ると、絵美梨は給湯室でお水を入れて花を活けた。

「はさみがないから、上手く活けられなくて……」

そう言う絵美梨に、要の母は微笑む。

「いいえ、とても美しいです。ありがとうございます。気分が明るくなりますね」

すると要が、ふと時計に目をやった。

「絵美梨さん、もう夕方の4時です。お忙しいでしょうからそろそろお帰りください」
「ううん、大丈夫。サロンのみんなも、要くんについていてあげてって言ってくれたし」
「ですが、そろそろ日が暮れます。本当にもうお帰りください」

そうね、と要の母が立ち上がる。

「わたくしが責任を持って、お屋敷まで送り届けますから」

促されて、仕方なく絵美梨も立ち上がった。

「じゃあ、要くん。お大事にね」
「はい。ありがとうございました、絵美梨さん」

最後に絵美梨は、要の耳元でそっと尋ねる。

「あの、要くん。彼女には連絡出来た?」
「は?」

要は、なんのことかとばかりに首ををひねった。

「彼女、とは? 私に恋人はいませんが」
「どうして? そんなはずは……」
「ああ、以前あなたに誤解させるようなことを言ってしまいましたね。すみません」
「えっ、私の誤解だったの?」
「はい。否定せずに申し訳ありませんでした」

そうだったの、と絵美梨は気が抜ける。

要の母がドアの横で、どうかしたのかと不思議そうに様子をうかがっているのに気づくと、慌てて「それじゃあ」と、絵美梨は病室をあとにした。