ただそこに愛があるなら

「お待たせしました。緋山さん、無事に一般病棟に移れるそうです。これから移動しますね」

どれくらい経ったのだろう。
ナースに声をかけられて、絵美梨は立ち上がる。

「はい、ありがとうございます」

スライドドアが開いて、中からベッドが運ばれて来ると、絵美梨はすぐさま駆け寄った。

「要くん」
「お嬢様!?」

無造作に下ろした前髪から、驚いたような要の瞳が見える。

「要くん……」

一気に涙が込み上げて声を震わせる絵美梨に、ベッドを押している年配のナースが首をひねった。

「……お嬢様? って、どういうご関係なの?」

要は「あ、いえ」と口を閉ざす。

4人部屋に運び込まれ、てきぱきとベッド周りを整えてから、ナースは「なにかあれば呼んでくださいね」と言って部屋を出て行った。

絵美梨はベッド脇の丸椅子に座って、要の顔を覗き込む。

「要くん」

途端に要の顔は真っ赤になった。

「お嬢さ……」

そこまで言ってから、同室の人の目を気にして慌てて口ごもる。

「あの……絵美梨さん」

今度は絵美梨が真っ赤になった。

「は、はい。なんでしょう?」
「その……あなたにお怪我はありませんでしたか?」

絵美梨の目から涙が溢れる。

「はい、大丈夫です。要くんが守ってくれたから。でも、私の代わりに要くんが……」

要はふっと優しく笑うと右手を伸ばし、指先で絵美梨の涙を拭った。

「あなたが無事で、本当に良かった」
「ごめんなさい。要くんはあれほど注意してくれたのに、私がわがままを言って一人で出かけたから」
「いいえ。あなたにとっては、とても大切な時間だったのです。環境に甘んじず、普通の感覚を失いたくないというあなたを、私は心から尊敬しています。こっそりあとをつけたりして、私の方こそすみませんでした」

絵美梨は要の右手を両手で握りしめ、懸命に首を振る。

「違うの、全部私が悪いの。本当にごめんなさい。私と関わったばかりに、あなたにこんな大怪我を負わせてしまって。私といれば、あなたは危険な目に……」
「絵美梨さん」
「はい」
「私はあなたのそばにいられて、とても幸せです。清らかで優しいあなたを見ていると、私まで心が洗われ、癒やされます。そんなあなたをお守りすることが私の使命であり、喜びなのです」

ぽろぽろと涙をこぼす絵美梨に、要は微笑んで頷いた。