ただそこに愛があるなら

薬品の独特の匂いがするフロアを進むと、壁際に置かれたベッドに案内される。

「こちらです、どうぞ」

酸素マスクを着け、点滴の管や心電図などのコードに繋がれた要が、目を閉じたままぐったりと横たわっていた。

絵美梨はベッドに駆け寄り、要の枕元にひざまずく。

背中の傷口を当てないよう、要はベッドに横向きに寝かされていた。

「麻酔が効いているので、しばらくは眠ったままでしょう。容体も安定していますので、このままなにもなければ明日には一般病棟に移れると思います。詳しくご説明しますので、よろしければ別室へ」

ドクターに促されて、要の両親はその場を去る。

残された絵美梨は、シーツの上に少し覗いた要の右手を、両手でそっと握りしめた。

「要くん……」

小さく名前を呟いた途端、涙が止めどなく溢れ出す。

「ごめんなさい、私のせいで……」

要の手を握りながら両手に顔を伏せ、声を押し殺して泣き続けた。

すると、ピクッとかすかに要の右手が動く。
絵美梨はハッとして目を見開いた。

「……お嬢、様」
「要くん! 大丈夫? まだ痛む?」

顔を覗き込むと、要はそっと人差し指を伸ばして、優しく絵美梨の涙をすくう。

「お嬢様……なぜ……涙を?」
「だって要くんが、私をかばってこんなことに」

要はぼんやりとした視線のまま、かすかに微笑んだ。

「夢か……」

え?と絵美梨は首をかしげる。

「懐かしい。お嬢様が、俺の名前を……。要くんの、バカって、子どもみたいに、泣きじゃくって……」
「なんのこと?」
「可愛くて、守ってあげたくて……、誰よりも、愛おしい……」

そう言うと、要は目を閉じてスーッと眠りに落ちた。