ただそこに愛があるなら

(やれやれ。あとはお屋敷まで真っ直ぐ帰るだけだな)

決して気を抜いた訳ではなかった。
だがやはり油断したのだろう。

絵美梨の背中越しに、反対側から歩いて来る若い女性の姿が見え、その女性の視線が一瞬鋭くなったのに気づいたが、身体が動くのがわずかに遅れた。

女性の手に、キラリと光るナイフが握られている。

「お嬢様!」

一気に駆け出して、女性の手を押さえる。
いつもならそう出来たはずだった。

だがわずかな遅れは、要の余裕を奪う。

(間に合わない!)

なりふり構わず、要は後ろから飛びつくようにして、絵美梨を腕の中に抱きしめた。

「うっ……」

背中に焼けつくような熱い痛みが走る。

「緋山!!」

絵美梨が悲痛な声を上げた。

「緋山、緋山!? 」
「お嬢様……、すみません。今日は、あとをつけないと……、お約束、したのに……」
「なに言ってるの! あなた、背中から血が……」

要の身体を懸命に支えていた絵美梨の顔から、スッと血の気が引いていく。

「どうしました? 大丈夫ですか?」

バタバタと人が集まって来て、呆然と立ち尽くす女性からナイフを取り上げた。

「救急車を呼んでください! お願いします!」

絵美梨は目に涙を浮かべて必死に訴える。

「お嬢様、すみま、せん……。あなたを、不安に……させて……」
「 私のことなんてどうでもいいの! 緋山、しっかりして!」

なんとか踏ん張っていた要の身体から遂に力が抜け、支えきれなくなった絵美梨と一緒に、地面に倒れ込んだ。

「緋山!」

要の意識がスーッと遠のいていく。

「いや! だめよ。お願い……要くん!」

最後にそう呼ばれた気がした。
愛する人の声で──