ただそこに愛があるなら



その頃、関野と二人きりになった絵美梨は、内心困り果てていた。

(奥様も帰ってしまったし、これから二人でどうしろっていうの?)

うつむいて眉根を寄せていると、どうやらおしとやかに見えたらしい。

「絵美梨さん、お手をどうぞ」

先を歩いていた関野立ち止まり、そう言って手を差し出してきた。

「ありがとうございます」

絵美梨は右手を差し出そうとして、あれ?と気づく。
関野は右手を絵美梨に差し出していた。

慌てて絵美梨は、左手を関野の右手に重ねる。

(えっと、なんか……慣れない)

こういう時、要はいつも左手を差し出し、絵美梨の右手を支えてくれていた。
いつの間にか、自然とそれに慣れていたらしい。

ぎこちなく左手を引かれて歩き出したが、関野は妙に手を高く持ち上げる。

(なに? 社交ダンスの大会じゃないんだから。それに私、振り袖なんですけど……)

顔の位置まで手を上げられ、とにかく歩きづらい。
これなら一人で歩いた方が楽だった。

「絵美梨さん、ひょっとして緊張されてますか?」

全くそんなことはないが、「いえ……」と言葉を濁したところ、関野は「しおらしくて、可愛らしいなぁ」と目尻を下げる。

「日本庭園に和装の絵美梨さんが美しく映えますね。お写真お撮りしますよ」

ようやく手を解放され、絵美梨はホッとする。

するといきなり関野は、カシャッと絵美梨の写真を撮った。

(えっ!?)

驚いて顔を上げると、またしてもカシャカシャと撮影される。

(ええ!?)

関野は絵美梨の戸惑いを意に介さず、「うん、いい写真だ」と満足気に笑う。

「絵美梨さん、ティーラウンジでお茶でも飲みましょうか」

そう言うと、再び絵美梨の左手を取り、やたら高く持ち上げて歩き出す。

絵美梨は右手で左の袖を押さえつつ、大きな歩幅でスタスタと歩く関野に引かれながら、つまずかないように足元を気にしていた。