ただそこに愛があるなら

ロビーで待っていると、着物姿の澤井夫人が、スーツを着た知的なイメージの眼鏡の男性を連れて現れた。

「お待たせ、絵美梨さん。こちらが関野正文(まさふみ)さんよ」

紹介されて、絵美梨は男性に向き合う。

「初めまして、松島絵美梨と申します」
「初めまして、関野です。噂どおり、とてもお美しい方ですね」
「いえ、そんな」

挨拶を終えると、ロビーを横切って1階の和食の料亭へと向かう。

今日もホテルの支配人が、入り口で待ち構えていた。

「いらっしゃいませ。澤井様、お嬢様。お着物姿がとても美しいですね」
「ありがとうございます。こちらは関野商事の関野様です」
「お待ちしておりました、関野様。ようこそ。早速ご案内いたします」

歩き出そうとすると、絵美梨に要が頭を下げた。

「お嬢様、それでは私はこれで。お帰りの際、またお声をかけにまいります」
「大丈夫、一人で帰れるわ。緋山はこのまま屋敷に戻って」

そう言い残し、絵美梨は澤井のあとに続いて店内に入った。

お辞儀をして見送った要は、踵を返してロビーに戻る。

帰れと言われても帰る訳にはいかない。
ロビーで絵美梨を待つことにした。

(それにしてもお嬢様の振り袖姿、美しかったな)

屋敷の玄関を出て来た時のことを思い出す。

(いつの間にあんなに大人っぽく? まだまだ小さく可愛らしい女の子のイメージが抜けなかったが、そうか、お嬢様ももう24なんだ)

上品で美しく、内面からにじみ出る優しさと温かさ。
それでいて仕事に打ち込み、自らを輝かせている人。

そんな絵美梨は、誰の目にも魅力的に映るはずだ。

(今日のお見合いも、来週の戸川社長とも、どうなるのだろう)

きっと絵美梨は、二人から結婚を申し込まれるだろう。
その時絵美梨は?

いずれにしろ、自分にはどうしようもない。
住む世界の違う人たちだから。

そう思いつつ、要は一人ロビーで絵美梨を待ち続けた。