ただそこに愛があるなら

要の機転に助けられ、ホッとしてと大きく息をついた絵美梨に、戸川が笑顔で話しかける。

「絵美梨さん、お疲れ様。今回は取材を引き受けてくれてありがとう。おかげでうちの会社も、また大きく注目されるよ。それに絵美梨さんと一緒だから、企業のイメージも抜群に良くなる。本当に感謝しているよ」
「いいえ、こちらこそ」

短く答える絵美梨に、戸川は顔を寄せた。

「せめてものお礼に、このあと食事をごちそうさせてもらえないかな?」
「あいにく今日は業務が詰まっておりますので」
「そうか、残念だな。それなら別の日に改めて。いつがいいかな?」

自然な流れでスマートフォンを取り出す戸川の横顔を、絵美梨は黙って見つめる。

楽しそうな戸川に、スッと気持ちが冷めるのを感じた。

「戸川さん」
「ん? 決まった?」

その言葉にも違和感を感じる。

「戸川さん、プライベートであなたとお会いすることは控えさせていただきます」

静かにそう言うと、戸川が「え?」と顔を上げる。

しばらく絵美梨と視線を合わせたあと、ふっと笑みを浮かべた。

「まだデートもしてないのに、フラれるのは納得いかないな。どうしてなのか、理由も思い当たらないし」
「失礼ながら、そういうお言葉が出てくるところです。わたくしとは根本的な価値観が違うと。おつき合いを始めたとしても、遅かれ早かれあなたもわたくしとは合わないと感じられると思います」

ようやく戸川が真顔に戻る。

「……もしかして、俺が成り上がりの社長だから? 家柄の格が違うと言いたいの?」
「めっそうもない。全くそんなふうには考えておりません」
「それなら、せめて一度だけでもチャンスをくれないか? でないと諦めがつかない。1日だけ俺とデートしてほしい。そのあとに、やっぱりだめだと言われたら、その時は潔く諦める」

そこまで言われては、絵美梨も返す言葉に詰まった。

(なんとなくこの人とは合わない、そういう違和感だけでお断りするのは失礼すぎるのかしら? だけど一度デートしても、私の返事は変わらない。時間の無駄だし、変に期待させてからまたお断りするのも……。これって私の考え方がおかしいの?)

視線を落として考え込んでいると、戸川が真剣に訴えてきた。

「絵美梨さん、俺の君への気持ちはそんなに簡単に消えるものではないんだ。だからもう少し考えてみてほしい。門前払いされたのでは、諦めきれない。フラれるにしても、きちんと自分の気持ちに終止符を打てるようにしたい」

その言い分は理解出来るし、自分としても失礼な態度は取りたくないと、絵美梨は結論を出す。

「分かりました。一度だけなら」

戸川の表情がパッと明るくなった。

「本当に? 良かった。ありがとう、絵美梨さん」
「いいえ。ただ、仕事が立て込んでいるのは事実でして、1日ゆっくりと時間を取ることは出来ません」
「分かった、それでも構わない。じゃあ、半日でいいから、サロンの定休日に会ってくれるかな?」
「かしこまりました。調整して、のちほど秘書からご連絡差し上げます」

え?と戸川は途端に意気消沈したが、仕方ないとばかりに最後は頷いた。