ただそこに愛があるなら

ニュース番組の中でドキュメンタリーとして取り上げるとのことで、戸川とスケジュールを調整し、絵美梨のサロンで二人一緒に取材したいとのこと。

当日、カメラマンと共にサロンにやって来たキャスターを前に、絵美梨は戸川と共に質問に答えていく。

「えー、まずは戸川社長にうかがいます。マッチングアプリというと、登録するのに勇気がいったり、出逢いがないから仕方なく利用する、といったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかと思いますが」

若い女性キャスターに切り出され、サロンのソファに絵美梨と並んで座る戸川が口を開いた。

「そうですね、まだまだそういったイメージが先行している部分はあると思います。私どもは、もちろんすてきな出会いをお客様と一緒に探しますが、なによりもまずは、お客様が自分に自信を持っていただきたいのです。誰かに幸せにしてほしいという他力本願ではなく、自分の足で人生を歩いて行けるように。そしてその横に寄り添ってくれるパートナーがいれば、もっと人生は楽しくなる。我々はそういったビジョンを持っています」
「なるほど。今回取材されていた由美さんも、最初はうつむきながら小声で話していた印象でしたが、みるみるうちに明るくキラキラした女性へと変わっていきましたよね」
「はい。だからこそすてきなお相手と結ばれたのだと思います。そして由美さんを内面から輝かせてくれたのが、サロン・ド・エクセルシアのみなさんに他なりません」

キャスターの女性は頷いて、絵美梨に向き直る。

「ではそのサロン・ド・エクセルシア代表の松島絵美梨さんにも、お話をうかがいます。松島さんと言えば、美しいセレブリティとして若い女性の憧れの存在でもありますが、今回なぜあんなにも短期間で由美さんを生まれ変わらせることが出来たのでしょうか? ご自身の美容法などを由美さんに伝授されたのですか?」

絵美梨は首を振って否定した。

「いいえ。わたくし自身、これといった美容法は持ち合わせておりませんし、由美さんが生まれ変わったとも考えておりません。由美さん自身が本来の明るさと内面の美しさを取り戻したのであって、わたくしたちはそのきっかけとなっただけなのです」

すると戸川が身を乗り出す。

「まさにそこがサロン・ド・エクセルシアのすごさなのです。外見を美しく磨き上げるだけでなく、自然と笑顔と明るさを引き出してくれる。由美さんがどんどん輝いていくのを目の当たりにして、私は本当に驚きました。今回由美さんを幸せに導いたのは、間違いなくサロン・ド・エクセルシアのみなさんのお力です」

そう言って戸川はにこやかな笑顔を絵美梨に向けた。

「わたくしたちサロンのスタッフも、今回由美さんとお会いして大変貴重な経験をさせていただきました。ありがたい機会をくださった戸川社長には、大変感謝しております」

キャスターが話をまとめるように二人を見比べる。

「今回戸川さんと松島さんが最強のタッグを組んだ、というところでしょうか。これからも両社の関係は続くのですか?」

それについてはまだなにも……と絵美梨が答えようとすると、戸川が先に口を開いた。

「弊社としてはそれを強く望んでいます。お客様から、自分もぜひサロン・ド・エクセルシアでプロデュースしてほしいというお声が多数寄せられていまして、そのご期待を裏切らぬよう、なんとしても松島さんに頷いてもらいたい。社員からの私への『頼みましたよ、社長』というプレッシャーもものすごいです」

そう言って苦笑いする戸川に、キャスターの女性も明るく言う。

「それは熱烈なラブコールですね。松島さん、いかがですか?」

絵美梨は慎重に言葉を選んだ。

「そう言っていただけるのは大変光栄なのですが、実際は色々な困難や制限があります。当サロンは、ありがたいことに半年先まで予約が埋まっておりますので、スペースや人手が足りません。物理的にも実質的にも難しい状況です」
「では、2号店をオープンさせるご予定は?」

軽い口調でそう尋ねてきた戸川に、絵美梨は驚く。

そんな重要なビジネスに関する話題を、インタビューという公の場で軽々しく聞かれることに危機感を覚えた。

「わたくしどもは、常にお客様を第一に、お客様のご要望にお応えしながら成長していきたいと考えております」

きっぱりと言ってから、絵美梨はさり気なく要に視線を送った。
要はすぐさま歩み寄り、にこやかにキャスターに声をかける。

「そろそろお時間ですので、インタビューはこの辺で。次はサロンの中をご紹介します。どうぞ」
「あ、はい! 楽しみです」

嬉しそうに立ち上がったキャスターとカメラマンを促し、要はサロンの2階へと向かった。