◇
パーティーがお開きとなり、屋敷へと車を走らせながら、要はさり気なくバックミラーに目をやる。
絵美梨がどこかぼんやりとした表情で、窓の外を眺めていた。
「お嬢様、お疲れですか?」
「え? そうでもないわよ」
「ではなにか、心配なことでも?」
「まあ、そうね」
絵美梨はなんとなく言葉を濁す。
要は、パーティーでのことを思い出していた。
乾杯してしばらくすると、戸川に誘われてバルコニーに向かった二人。
しばらくすると、絵美梨は戸川に肩を抱かれるようにして戻ってきた。
羽織っているジャケットを脱いで戸川に返し、お辞儀をしてから乃亜たちのもとに向かう絵美梨は、少し思い詰めているようにも見えた。
(やはり戸川社長が告白したのだろうな)
そう思うが、だからと言って要にはなにも出来ない。
(お嬢様には幸せになってもらいたいが、告白されてこんなふうに表情を曇らせるということは、戸川社長に対してそんな気持ちにはなれないということか。戸川社長は悪い方ではないが、少々強引なところがあるような気がする。お嬢様が嫌がるようなことをされないか、気にかけておかねば)
するとふいに絵美梨が顔を上げて聞いてきた。
「ねえ、緋山。私はサロンにいない方がいいのかしら」
いきなり全く別の話題になり、要は思わず「は?」と真顔で聞き返す。
「サロンに、ですか? それは一体、どういう意味でしょう」
「私が現場にいない方が、スタッフのみんなは仕事がしやすいのでしょうね」
「……はい? おっしゃる意味が」
「緋山から見てどう思う? みんなは私がいないところで、私への不満を話していたりする?」
要はスッと顔つきを変えて、真剣に口を開いた。
「そんなことがあると、社長自らがお考えなのですか?」
「いえ、そうではないの。私はスタッフ全員を心から信頼しています。だけどみんなは、私に対して不満もあるでしょう? それはごく当然のことだと思うの。それなのに、誰も私に話してこないから、言いづらいのかと思って。それならいっそのこと、私が現場にいない方がいいのかもしれないと……」
思わず声を荒らげそうになり、要は必死に心を落ち着かせながら口を開く。
「社長にそう思われていることが、私はショックでなりません」
えっ……と絵美梨は言葉を失くした。
「誰かが社長に対して不平不満をもらしているのを、私は聞いたことがありません。それよりも、なんとかして社長を助けたい、自分に出来ることはないかと、皆、日頃から互いに相談し合っています。乃亜さんは、澤井夫人のような方にも失礼のないようにと礼儀作法や言葉遣いを学んでいますし、京華さんはいつも予約や依頼の窓口となり、自分たちでこなせるものは率先して割り振って社長の負担を減らそうとしています。そして香織さんは……。陰ながら常に社長のことを心配し、社長を守ってくれています」
「そんな、みんながそんなことを?」
絵美梨はしばし呆然とする。
「私の言葉は信じられませんか?」
「いいえ、まさか。みんなの優しさや心遣いは、いつも感じているわ。だからこそ、我慢してほしくなくて。不満があればなんでも言ってきてほしいの。だけど誰もなにも言わないから……」
「それは誰もなにも、社長に対して不満がないからです」
要がきっぱりと言い切ると、絵美梨は口を閉ざしてうつむいた。
「社長、どなたかになにかを言われたのかもしれませんが、惑わされず目の前にいるスタッフを信じてください。他人の言葉より、あなたの目に映るものが真実だと自信を持ってください。サロンのスタッフとあなたの間の信頼関係は、多少のことでは揺るがない。なぜなら全員があなたを心から信じ、どんな時もあなたの味方だから。私はそう思います」
絵美梨はじっと押し黙ってから顔を上げる。
「分かったわ、あなたの言う通りよ。もう二度とみんなの言葉を疑ったりしない。だってみんな、サロンの為に一生懸命尽くしてくれているもの。その姿に嘘なんて1つもない。私はみんなの気持ちに応えてサロンを守り続けます」
「はい」
しっかりと頷き合ってから、絵美梨はミラー越しに要に笑いかけた。
「いつもありがとう、緋山。あなたのおかげで私がどんなに助けられているか。女性ばかりの職場でやりづらくない? ちゃんとプライベートの時間も取って、彼女を大切にしてね」
恋人がいると誤解させたままなのが後ろめたくなりつつ、要は絵美梨の笑顔に思わず頬を緩めていた。
パーティーがお開きとなり、屋敷へと車を走らせながら、要はさり気なくバックミラーに目をやる。
絵美梨がどこかぼんやりとした表情で、窓の外を眺めていた。
「お嬢様、お疲れですか?」
「え? そうでもないわよ」
「ではなにか、心配なことでも?」
「まあ、そうね」
絵美梨はなんとなく言葉を濁す。
要は、パーティーでのことを思い出していた。
乾杯してしばらくすると、戸川に誘われてバルコニーに向かった二人。
しばらくすると、絵美梨は戸川に肩を抱かれるようにして戻ってきた。
羽織っているジャケットを脱いで戸川に返し、お辞儀をしてから乃亜たちのもとに向かう絵美梨は、少し思い詰めているようにも見えた。
(やはり戸川社長が告白したのだろうな)
そう思うが、だからと言って要にはなにも出来ない。
(お嬢様には幸せになってもらいたいが、告白されてこんなふうに表情を曇らせるということは、戸川社長に対してそんな気持ちにはなれないということか。戸川社長は悪い方ではないが、少々強引なところがあるような気がする。お嬢様が嫌がるようなことをされないか、気にかけておかねば)
するとふいに絵美梨が顔を上げて聞いてきた。
「ねえ、緋山。私はサロンにいない方がいいのかしら」
いきなり全く別の話題になり、要は思わず「は?」と真顔で聞き返す。
「サロンに、ですか? それは一体、どういう意味でしょう」
「私が現場にいない方が、スタッフのみんなは仕事がしやすいのでしょうね」
「……はい? おっしゃる意味が」
「緋山から見てどう思う? みんなは私がいないところで、私への不満を話していたりする?」
要はスッと顔つきを変えて、真剣に口を開いた。
「そんなことがあると、社長自らがお考えなのですか?」
「いえ、そうではないの。私はスタッフ全員を心から信頼しています。だけどみんなは、私に対して不満もあるでしょう? それはごく当然のことだと思うの。それなのに、誰も私に話してこないから、言いづらいのかと思って。それならいっそのこと、私が現場にいない方がいいのかもしれないと……」
思わず声を荒らげそうになり、要は必死に心を落ち着かせながら口を開く。
「社長にそう思われていることが、私はショックでなりません」
えっ……と絵美梨は言葉を失くした。
「誰かが社長に対して不平不満をもらしているのを、私は聞いたことがありません。それよりも、なんとかして社長を助けたい、自分に出来ることはないかと、皆、日頃から互いに相談し合っています。乃亜さんは、澤井夫人のような方にも失礼のないようにと礼儀作法や言葉遣いを学んでいますし、京華さんはいつも予約や依頼の窓口となり、自分たちでこなせるものは率先して割り振って社長の負担を減らそうとしています。そして香織さんは……。陰ながら常に社長のことを心配し、社長を守ってくれています」
「そんな、みんながそんなことを?」
絵美梨はしばし呆然とする。
「私の言葉は信じられませんか?」
「いいえ、まさか。みんなの優しさや心遣いは、いつも感じているわ。だからこそ、我慢してほしくなくて。不満があればなんでも言ってきてほしいの。だけど誰もなにも言わないから……」
「それは誰もなにも、社長に対して不満がないからです」
要がきっぱりと言い切ると、絵美梨は口を閉ざしてうつむいた。
「社長、どなたかになにかを言われたのかもしれませんが、惑わされず目の前にいるスタッフを信じてください。他人の言葉より、あなたの目に映るものが真実だと自信を持ってください。サロンのスタッフとあなたの間の信頼関係は、多少のことでは揺るがない。なぜなら全員があなたを心から信じ、どんな時もあなたの味方だから。私はそう思います」
絵美梨はじっと押し黙ってから顔を上げる。
「分かったわ、あなたの言う通りよ。もう二度とみんなの言葉を疑ったりしない。だってみんな、サロンの為に一生懸命尽くしてくれているもの。その姿に嘘なんて1つもない。私はみんなの気持ちに応えてサロンを守り続けます」
「はい」
しっかりと頷き合ってから、絵美梨はミラー越しに要に笑いかけた。
「いつもありがとう、緋山。あなたのおかげで私がどんなに助けられているか。女性ばかりの職場でやりづらくない? ちゃんとプライベートの時間も取って、彼女を大切にしてね」
恋人がいると誤解させたままなのが後ろめたくなりつつ、要は絵美梨の笑顔に思わず頬を緩めていた。



