動画の再生回数が伸びるにつれて、サロンの注目度も上がり、問い合わせも増えた。
絵美梨はますます忙しくなり、要の心配をよそに残業が続く。
「社長、そろそろ切り上げて帰りましょう」
静まり返ったサロンで、要は毎晩そう絵美梨に声をかける。
今日も、時刻は22時を回っていた。
「んー、もう少しやっておきたいの。緋山は先に帰ってて」
「そんな訳にはまいりませんと、何度申し上げれば分かっていただけるのですか?」
「緋山こそ、何度言ったら分かるのよ? プライベートの時間をもっと大切にしなさい。彼女を悲しませたらどうするの?」
「でしたら、社長も早くお帰りください。私が社長を置いて先に帰るなど、天地が逆さになってもあり得ないことだとどうしてお分かりに……」
「あー、もう、分かったわよ! 帰ればいいんでしょ? 帰りますわよ!」
話を遮るように言って、ようやく絵美梨は立ち上がる。
要も手早くパソコンを閉じてデスクを片づけた。
屋敷へと向かう車の中で、絵美梨が後部シートから尋ねる。
「緋山、彼女は土日休みのお仕事なの? サロンの定休日は平日だけど、ちゃんとデート出来てる?」
「……そうですね」
「なにそれ。そうですねって、どうですねん?」
「お嬢様、そのような妙な関西弁をどちらで覚えたのですか?」
「話をそらさないでよ」
絵美梨はバッグミラー越しに要を見つめた。
「いい? 誰よりもまずは彼女のことを第一に考えてね。私のせいで緋山が幸せになれなかったら困るもの。男たるもの、愛する人にビシッとプロポーズして、バシッと結婚してみせるのよ」
「……お嬢様。それはなにかのスポーツですか?」
「もう! どうしていつも変な話になるのよ。彼女にはもっとこう、甘く愛をささやくとか、ちゃんと出来てるの?」
「どうでしょう」
「どうでしょうって、なんですねん!」
「お嬢様、浜子さんに叱られますよ。ご令嬢たるもの、いついかなる時も品格を忘れず、清く正しく美しい女性としての振る舞いと言葉遣いを……」
うるさーい!と絵美梨が遮る。
「緋山、あなたいつから浜子さん2号になったのよ。ハマオって呼ぶわよ?」
「どうぞご自由に。ハマコとハマオで結託し、この先も必ずやお嬢様をお守りいたします」
「……逃げられる気がしない」
「おや、逃げられるとでも?」
バックミラーに目を向けると、絵美梨が頬を膨らませて、ふいとそっぽを向くのが見えた。
拗ねたように唇を尖らせる絵美梨に、要は思わず笑みをもらす。
「お嬢様」
「なによ?」
「どうかすてきな恋愛をしてくださいね」
絵美梨は虚を突かれたように顔を上げた。
「どうしたのよ、急に」
「お嬢様には誰よりも幸せになっていただきたいのです。上品で美しく、心が清らかで優しいお嬢様は、実は子どものように無邪気で可愛らしいところもあります。そんなお嬢様の内面の魅力に気づいて、心から大切にしてくれる人、お嬢様が安心して心許せるお相手が、いつかきっと現れる。私はそう信じています。その時には、どうか素直に愛されてくださいね」
シンと沈黙が広がり、要は再びバックミラーに目を向ける。
そこには、頬を真っ赤に染めてうつむき、困ったように目を潤ませている絵美梨が映っていた。
絵美梨はますます忙しくなり、要の心配をよそに残業が続く。
「社長、そろそろ切り上げて帰りましょう」
静まり返ったサロンで、要は毎晩そう絵美梨に声をかける。
今日も、時刻は22時を回っていた。
「んー、もう少しやっておきたいの。緋山は先に帰ってて」
「そんな訳にはまいりませんと、何度申し上げれば分かっていただけるのですか?」
「緋山こそ、何度言ったら分かるのよ? プライベートの時間をもっと大切にしなさい。彼女を悲しませたらどうするの?」
「でしたら、社長も早くお帰りください。私が社長を置いて先に帰るなど、天地が逆さになってもあり得ないことだとどうしてお分かりに……」
「あー、もう、分かったわよ! 帰ればいいんでしょ? 帰りますわよ!」
話を遮るように言って、ようやく絵美梨は立ち上がる。
要も手早くパソコンを閉じてデスクを片づけた。
屋敷へと向かう車の中で、絵美梨が後部シートから尋ねる。
「緋山、彼女は土日休みのお仕事なの? サロンの定休日は平日だけど、ちゃんとデート出来てる?」
「……そうですね」
「なにそれ。そうですねって、どうですねん?」
「お嬢様、そのような妙な関西弁をどちらで覚えたのですか?」
「話をそらさないでよ」
絵美梨はバッグミラー越しに要を見つめた。
「いい? 誰よりもまずは彼女のことを第一に考えてね。私のせいで緋山が幸せになれなかったら困るもの。男たるもの、愛する人にビシッとプロポーズして、バシッと結婚してみせるのよ」
「……お嬢様。それはなにかのスポーツですか?」
「もう! どうしていつも変な話になるのよ。彼女にはもっとこう、甘く愛をささやくとか、ちゃんと出来てるの?」
「どうでしょう」
「どうでしょうって、なんですねん!」
「お嬢様、浜子さんに叱られますよ。ご令嬢たるもの、いついかなる時も品格を忘れず、清く正しく美しい女性としての振る舞いと言葉遣いを……」
うるさーい!と絵美梨が遮る。
「緋山、あなたいつから浜子さん2号になったのよ。ハマオって呼ぶわよ?」
「どうぞご自由に。ハマコとハマオで結託し、この先も必ずやお嬢様をお守りいたします」
「……逃げられる気がしない」
「おや、逃げられるとでも?」
バックミラーに目を向けると、絵美梨が頬を膨らませて、ふいとそっぽを向くのが見えた。
拗ねたように唇を尖らせる絵美梨に、要は思わず笑みをもらす。
「お嬢様」
「なによ?」
「どうかすてきな恋愛をしてくださいね」
絵美梨は虚を突かれたように顔を上げた。
「どうしたのよ、急に」
「お嬢様には誰よりも幸せになっていただきたいのです。上品で美しく、心が清らかで優しいお嬢様は、実は子どものように無邪気で可愛らしいところもあります。そんなお嬢様の内面の魅力に気づいて、心から大切にしてくれる人、お嬢様が安心して心許せるお相手が、いつかきっと現れる。私はそう信じています。その時には、どうか素直に愛されてくださいね」
シンと沈黙が広がり、要は再びバックミラーに目を向ける。
そこには、頬を真っ赤に染めてうつむき、困ったように目を潤ませている絵美梨が映っていた。



