ただそこに愛があるなら

「戸川社長、こちらへどうぞ」

要が促してコーヒーを用意する。

「ありがとう。へえ、このカップ、高級ブランドのものだね」

コーヒーもひと口飲んでから「うん、いい味わいだ」と頷いた。

「サロンの内装も、さすがは絵美梨さんのセンスだ。家具は全てイタリア製かフランス製かな?」

言い当てる戸川もさすがだと、要は舌を巻く。

「2階に続くあの階段も、緩やかなカーブを描いていて美しい」
「はい。あちらでブライダルフォトの撮影も可能です」
「なるほど。絵美梨さんのビジネスの手腕は素晴らしいな。私でも、事業を軌道に載せるのに2年半はかかったよ。生粋のお嬢様とは思えない。お父上から経営学を学んだとか?」
「いえ、そういったことはございません。このサロンの立ち上げも、全て社長の一存です」

へえ、と戸川は要を見上げた。

「緋山さんは、立ち上げ当初からの秘書なの? それとも、もっと古くから?」

なにやら含みを感じたが、「サロンの開業と共に秘書を仰せつかりました」と答える。

それ以前は護衛の為の付き人でしかなかったから、嘘ではない。

すると戸川は、話の流れを変えた。

「絵美梨さんは、やはり決められたフィアンセがいらっしゃるのかな?」
「プライベートに関しては、なにも存じ上げません」
「ふうん……。秘書である君は、絵美梨さんの恋愛には介入しないということ?」
「左様でございます」
「それなら良かった」

そう言って戸川は不敵な笑みを浮かべる。

「私が彼女に交際を申し込んでも、君はなにも口を挟めない。そういうことだね?」
「……はい」
「よく覚えておこう。君も忘れないで」

ゆったりとソファに座り直し、優雅にコーヒーを味わう戸川に、要は内心焦りを覚えていた。