ただそこに愛があるなら

「あー、もう、ホッとした。本当におめでとう、要くん」

東京の要のマンションで、二人は合格を祝う。

「ありがとう、絵美梨。来月から司法修習が始まるけど、ここまで来たら突っ走るだけだ。来年の今頃は、必ず司法修習生考試に受かって、弁護士になってみせる」
「うん! 最後まで応援してるからね」

笑顔でそう言ってから、絵美梨はふとバッグをゴソゴソと探り始めた。

「どうした、絵美梨?」
「うん、あのね。これなんだけど……」

大切そうにそっと書類ケースから取り出したのは、婚姻届。

急にどうしたのかと、要は不安になった。

「婚姻届が、どうかしたのか?」
「私ね、きっと早く婚姻届を提出したくなるだろうなって思ってたの。だけど全然そんなことなかった」
「えっ、それってまさか……。俺との結婚は、もう考えられないってことか?」

すると絵美梨は「違う違う」と笑う。

「そうじゃなくてね。なんて言うか、結婚はそんなに大したことじゃなくて、二の次なんだなって思って」
「ええ!?」

要はショックの余り、スーッと意識が遠のきそうになった。

「要くん? 大丈夫?」
「いや、ちょっと、だめかも。絵美梨が、婚姻届を、出したくないなんて……」
「違うのよ、そんなこと思ってないわよ? いい意味で、予想と違ったなって。結婚してなくても、私は要くんと一緒にいられるだけで幸せなの。逆に言うとたとえ結婚しても、要くんと心が通い合っていなければ幸せにはなれない。婚姻届を出せば、幸せが保証される訳ではないのよね。大事なのは形ではなく、私たちがお互いに想い合うこと。幸せは、二人の心で作っていくものなのよ」
「絵美梨……」

要は絵美梨の言葉を噛みしめてから、涙をこらえて絵美梨の身体を抱き寄せる。

「ありがとう、絵美梨。本当に、どこまでも強くてかっこいい」
「ふふっ。でも要くんなしでは生きていけないわよ?」
「ああ。俺の前では可愛くて、俺にだけは甘えてくれて、俺だけを見つめてくれる。絵美梨、切なくなるほど君が愛おしい」
「要くん……」
「必ず幸せにする。一生離さない。1年後、俺は絵美梨を嫁にもらう」

絵美梨は顔を真っ赤にして、要に抱きつく。

「……1年後ね?」
「ああ、約束する」
「婚姻届、インクが消えたりしない?」
「大丈夫だ。多分……」
「多分!?」
「消えてたら、また書こう。あのボールペンで」
「ふふふ、そうね」