「おお、やっとか!」
数日後、二人で挨拶に行くと、絵美梨の父の幸一郎は開口一番そう言った。
「はい? お父様、やっと、とは?」
「そのままだよ。いやー、長かったな。どれだけ私が我慢したと思ってる? とっとと結婚して、早く孫を見せてくれってセリフを」
絵美梨と要は、思わず顔を見合わせる。
「お父様、私たちが結婚するとお考えだったのですか?」
「当たり前だ。他に誰がいる?」
「えっと……?」
結婚の許しをもらうはずが、今更どう言えばいいのか分からなくなった。
「それで? 式はいつ挙げるんだ?」
「旦那様。そのことについてなのですが、実は……」
ようやく要は、事情を伝える。
幸一郎と、その後ろに控えていた要の両親は、じっと耳を傾けていた。
全て聞き終えると、なるほど、と深く息をつく。
「旦那様、申し訳ございません。大切なお嬢様に、私の都合を押し付けてしまって」
要が頭を下げると、幸一郎は絵美梨に尋ねた。
「絵美梨は、それでいいのか?」
「はい、もちろん」
「そうか。でも私は早く孫の顔が見たいから、結婚はあとでも子どもは先に作ったらどうだ?」
は?と、絵美梨と要は声をうわずらせる。
「お父様、なんてことを……」
言葉を失う絵美梨に、要が改めて切り出した。
「旦那様、それはさておき」
「いや、さておくな。孫に会う日を楽しみにしているぞ」
「か、かしこまりました。その前に、お嬢様は松島一族のご令嬢でいらっしゃいます。緋山の籍に入っていただくと、松島の名が途絶えてしまうのが心苦しく……」
するとまたしても幸一郎は「なんだ、そんなことか」と軽く言う。
「そんなこと、とは?」
「そりゃ、全国に数人しかいない苗字ならなくなるのは惜しいが、松島なんてたくさんいる」
「ですが、こちらは由緒正しいお家柄です。一般的な家庭の苗字とは意味合いも違い……」
「要、大事なのは名前じゃない。苗字が緋山になっても、絵美梨は絵美梨だ。絵美梨の身体に流れている血も、なにも変わらない。先祖代々、脈々と受け継がれてきた血を、今度は絵美梨と要の子どもが受け継ぐんだ。お前たち二人の子なら、きっと心優しくたくましく、自分の力でしっかりと人生を切り拓いていくだろう。要、絵美梨を頼んだぞ。二人でしっかりと手を取り合って、新しい家庭を築いていきなさい」
「旦那様……。ありがとうございます。この命に換えても、必ずお嬢様をお守りいたします」
幸一郎は要に頷くと、絵美梨に笑いかけた。
「良かったな、絵美梨。幸せになるんだぞ」
「お父様……。はい、ありがとうございます」
最後に絵美梨は、要の父と母にも挨拶する。
「ふつつか者ですが、どうぞ幾久しくよろしくお願いいたします」
「とんでもない。こちらこそ、身分違いの息子を受け入れてくださって、本当にありがとうございます。緋山家一同、いつまでもお嬢様をお支えいたします」
部屋の隅に控えていた浜子も、涙ぐんで頷いた。
そして要と絵美梨は、お揃いのボールペンで婚姻届を書く。
幸一郎と要の父も、証人のサインをした。
「大切にしまっておくわね」
そう言って微笑み合う絵美梨と要に、幸一郎がボソッと呟く。
「こっそり出しに行こうかな」
「お父様!?」
「ははは! 私に見つからないように、ちゃんと隠しておきなさい」
「もう……」
呆れる絵美梨に、要も両親も笑い出す。
「さあ、では今夜はごちそうにいたしましょう!」
浜子が声をかけ、皆は笑顔で頷いた。
数日後、二人で挨拶に行くと、絵美梨の父の幸一郎は開口一番そう言った。
「はい? お父様、やっと、とは?」
「そのままだよ。いやー、長かったな。どれだけ私が我慢したと思ってる? とっとと結婚して、早く孫を見せてくれってセリフを」
絵美梨と要は、思わず顔を見合わせる。
「お父様、私たちが結婚するとお考えだったのですか?」
「当たり前だ。他に誰がいる?」
「えっと……?」
結婚の許しをもらうはずが、今更どう言えばいいのか分からなくなった。
「それで? 式はいつ挙げるんだ?」
「旦那様。そのことについてなのですが、実は……」
ようやく要は、事情を伝える。
幸一郎と、その後ろに控えていた要の両親は、じっと耳を傾けていた。
全て聞き終えると、なるほど、と深く息をつく。
「旦那様、申し訳ございません。大切なお嬢様に、私の都合を押し付けてしまって」
要が頭を下げると、幸一郎は絵美梨に尋ねた。
「絵美梨は、それでいいのか?」
「はい、もちろん」
「そうか。でも私は早く孫の顔が見たいから、結婚はあとでも子どもは先に作ったらどうだ?」
は?と、絵美梨と要は声をうわずらせる。
「お父様、なんてことを……」
言葉を失う絵美梨に、要が改めて切り出した。
「旦那様、それはさておき」
「いや、さておくな。孫に会う日を楽しみにしているぞ」
「か、かしこまりました。その前に、お嬢様は松島一族のご令嬢でいらっしゃいます。緋山の籍に入っていただくと、松島の名が途絶えてしまうのが心苦しく……」
するとまたしても幸一郎は「なんだ、そんなことか」と軽く言う。
「そんなこと、とは?」
「そりゃ、全国に数人しかいない苗字ならなくなるのは惜しいが、松島なんてたくさんいる」
「ですが、こちらは由緒正しいお家柄です。一般的な家庭の苗字とは意味合いも違い……」
「要、大事なのは名前じゃない。苗字が緋山になっても、絵美梨は絵美梨だ。絵美梨の身体に流れている血も、なにも変わらない。先祖代々、脈々と受け継がれてきた血を、今度は絵美梨と要の子どもが受け継ぐんだ。お前たち二人の子なら、きっと心優しくたくましく、自分の力でしっかりと人生を切り拓いていくだろう。要、絵美梨を頼んだぞ。二人でしっかりと手を取り合って、新しい家庭を築いていきなさい」
「旦那様……。ありがとうございます。この命に換えても、必ずお嬢様をお守りいたします」
幸一郎は要に頷くと、絵美梨に笑いかけた。
「良かったな、絵美梨。幸せになるんだぞ」
「お父様……。はい、ありがとうございます」
最後に絵美梨は、要の父と母にも挨拶する。
「ふつつか者ですが、どうぞ幾久しくよろしくお願いいたします」
「とんでもない。こちらこそ、身分違いの息子を受け入れてくださって、本当にありがとうございます。緋山家一同、いつまでもお嬢様をお支えいたします」
部屋の隅に控えていた浜子も、涙ぐんで頷いた。
そして要と絵美梨は、お揃いのボールペンで婚姻届を書く。
幸一郎と要の父も、証人のサインをした。
「大切にしまっておくわね」
そう言って微笑み合う絵美梨と要に、幸一郎がボソッと呟く。
「こっそり出しに行こうかな」
「お父様!?」
「ははは! 私に見つからないように、ちゃんと隠しておきなさい」
「もう……」
呆れる絵美梨に、要も両親も笑い出す。
「さあ、では今夜はごちそうにいたしましょう!」
浜子が声をかけ、皆は笑顔で頷いた。



