笑顔で頷いたあと、絵美梨はふと真顔になる。
「どうした? 絵美梨」
「うん、あのね。実は私もお揃いでそのボールペン買ったの」
「そうなのか?」
「そう。これなんだけど」
絵美梨はバッグの中からボールペンを取り出す。
色はターコイズブルーで、【E.Hiyama】と刻印されていた。
「へえ、いいな」
そう言ってから、要はふと違和感を感じる。
「ちょ、待て、絵美梨? これ……」
「えへへ、バレた?」
絵美梨は得意げに笑うと、【Hiyama】の部分を指差して要の前に掲げた。
「いいでしょー!」
「いや、ちょっ、良くない」
「ええ!? どうしてよ」
途端にしょんぼりする絵美梨に、要は身を乗り出した。
「絵美梨、これって冗談で彫ったんじゃないよな?」
「もちろん。そんな冗談言いません」
「分かった。それならきちんと説明させて。絵美梨、俺は必ず弁護士になって絵美梨を迎えに行く。それまで待っててくれる?」
「ヤダ。そんなに待てない」
「絵美梨!?」
拗ねてそっぽを向く絵美梨に、要は頭を抱える。
「だって、3年もかかるんでしょ? そんなに待ってたら、おばあちゃんになっちゃう」
「大丈夫。3年でおばあちゃんにはならないし、絵美梨ならおばあちゃんになっても可愛いままだ」
「でも3年も待てないの! 今すぐ要くんのお嫁さんになりたい」
「いや、そのお嫁さんも問題なんだ。絵美梨は、苗字が緋山になってもいいのか?」
「当然よ! なに、要くんは私との結婚は考えられないの?」
絵美梨はムキになって要をキッと睨んだ。
「違うから、落ち着いて。絵美梨、俺は絵美梨と結婚する。それだけは確かだ。だけど絵美梨は松島家のひとり娘だ。緋山に嫁入りすれば、松島の名が残せなくなるだろう?」
「そんなの関係ないもん! そんな理由で、要くんは私との結婚を拒むの?」
「違うよ。だから俺が松島の家に婿入りする方がいいのかもしれないと思って。いずれ絵美梨にプロポーズして、頷いてもらえたら、旦那様に相談するつもりだったんだ」
「お父様に相談なんて必要ありません。要くんと結婚するのはこの私よ? しかももう26歳の大人なんだから」
そう言うと絵美梨は、涙ぐみながらボールペンを握りしめる。
「要くんとお揃いのボールペンで、二人で一緒に書きたかったの。一番最初に、婚姻届を」
「絵美梨……」
要は腕を伸ばして絵美梨を抱きしめた。
「ごめん。俺がちゃんとした家柄で、仕事でも地位を築いていたら、すぐに絵美梨をお嫁さんに出来たのに」
「そんな、違うの! ごめんなさい。私はただ、要くんのそばにいたくて。でも結婚前に一緒に住むのはよくないかなと思って、だから早く結婚したくなって……」
声を震わせる絵美梨の頭を、要はギュッと胸に抱き寄せる。
「ありがとう。絵美梨のその気持ちはなにより嬉しい」
「要くん、ごめんなさい。あなたを困らせるつもりはなくて……」
「分かってる。それなら絵美梨の言うとおりにしよう」
え?と、絵美梨が顔を上げた。
「旦那様に挨拶して、結婚のお許しをいただけたら、婚姻届を一緒に書こう。お揃いのこのボールペンで」
「ほんとに? 要くんは、弁護士になってからの方がいいんじゃないの?」
「そうだな。だけど絵美梨を寂しがらせるのだけは嫌だ」
「でも……」
絵美梨はしばらくうつむいて考え込む。
「それならこうしない? 婚姻届を書いて、要くんが弁護士になるまで大切にしまっておくの。でも私が、『もう寂しくて限界!』って思ったら、区役所に出しに行く。私が寂しくなるのが先か、要くんが弁護士になるのが先か、賭けるわよ」
ふふっといたずらっ子のように笑う絵美梨に、要はしばし驚いてから、もう一度両腕で絵美梨をギュッと抱きしめた。
「ありがとう、絵美梨。俺は絵美梨を絶対に寂しがらせない。先に俺が弁護士になる方に賭ける」
「うん。がんばってね」
「ああ。だけど絵美梨、婚姻届を書く前にやることがある」
「え?」
要はそっと身体を離すと、絵美梨の両手を握る。
「絵美梨。身分の違いも気にせず、俺を真っ直ぐに見つめてくれてありがとう。誰よりも心がきれいで、優しくて可愛い絵美梨のことが、俺は愛おしくてたまらない。必ずこの手で一生守っていく。だから絵美梨、俺と結婚してほしい」
絵美梨は息を呑むと、こらえ切れずに涙を溢れさせた。
「私も要くんが大好きです。小さい時から、いつもそばで守ってくれてありがとう。大きな怪我を負ってまで私をかばってくれて、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、今の私があります。あなたのいないこの先の人生なんて、考えられない。ずっとずっと、そばにいさせてね」
「ああ。これまで抑え込んできた想いを、全部絵美梨に注ぐ。俺は心から君を愛している」
「私もです。ずっとあなたに伝えたかったの。誰よりも大好きって」
それ以上の言葉はいらない。
二人は互いに抱きしめ合い、心を重ねて、幸せを噛みしめていた。
「どうした? 絵美梨」
「うん、あのね。実は私もお揃いでそのボールペン買ったの」
「そうなのか?」
「そう。これなんだけど」
絵美梨はバッグの中からボールペンを取り出す。
色はターコイズブルーで、【E.Hiyama】と刻印されていた。
「へえ、いいな」
そう言ってから、要はふと違和感を感じる。
「ちょ、待て、絵美梨? これ……」
「えへへ、バレた?」
絵美梨は得意げに笑うと、【Hiyama】の部分を指差して要の前に掲げた。
「いいでしょー!」
「いや、ちょっ、良くない」
「ええ!? どうしてよ」
途端にしょんぼりする絵美梨に、要は身を乗り出した。
「絵美梨、これって冗談で彫ったんじゃないよな?」
「もちろん。そんな冗談言いません」
「分かった。それならきちんと説明させて。絵美梨、俺は必ず弁護士になって絵美梨を迎えに行く。それまで待っててくれる?」
「ヤダ。そんなに待てない」
「絵美梨!?」
拗ねてそっぽを向く絵美梨に、要は頭を抱える。
「だって、3年もかかるんでしょ? そんなに待ってたら、おばあちゃんになっちゃう」
「大丈夫。3年でおばあちゃんにはならないし、絵美梨ならおばあちゃんになっても可愛いままだ」
「でも3年も待てないの! 今すぐ要くんのお嫁さんになりたい」
「いや、そのお嫁さんも問題なんだ。絵美梨は、苗字が緋山になってもいいのか?」
「当然よ! なに、要くんは私との結婚は考えられないの?」
絵美梨はムキになって要をキッと睨んだ。
「違うから、落ち着いて。絵美梨、俺は絵美梨と結婚する。それだけは確かだ。だけど絵美梨は松島家のひとり娘だ。緋山に嫁入りすれば、松島の名が残せなくなるだろう?」
「そんなの関係ないもん! そんな理由で、要くんは私との結婚を拒むの?」
「違うよ。だから俺が松島の家に婿入りする方がいいのかもしれないと思って。いずれ絵美梨にプロポーズして、頷いてもらえたら、旦那様に相談するつもりだったんだ」
「お父様に相談なんて必要ありません。要くんと結婚するのはこの私よ? しかももう26歳の大人なんだから」
そう言うと絵美梨は、涙ぐみながらボールペンを握りしめる。
「要くんとお揃いのボールペンで、二人で一緒に書きたかったの。一番最初に、婚姻届を」
「絵美梨……」
要は腕を伸ばして絵美梨を抱きしめた。
「ごめん。俺がちゃんとした家柄で、仕事でも地位を築いていたら、すぐに絵美梨をお嫁さんに出来たのに」
「そんな、違うの! ごめんなさい。私はただ、要くんのそばにいたくて。でも結婚前に一緒に住むのはよくないかなと思って、だから早く結婚したくなって……」
声を震わせる絵美梨の頭を、要はギュッと胸に抱き寄せる。
「ありがとう。絵美梨のその気持ちはなにより嬉しい」
「要くん、ごめんなさい。あなたを困らせるつもりはなくて……」
「分かってる。それなら絵美梨の言うとおりにしよう」
え?と、絵美梨が顔を上げた。
「旦那様に挨拶して、結婚のお許しをいただけたら、婚姻届を一緒に書こう。お揃いのこのボールペンで」
「ほんとに? 要くんは、弁護士になってからの方がいいんじゃないの?」
「そうだな。だけど絵美梨を寂しがらせるのだけは嫌だ」
「でも……」
絵美梨はしばらくうつむいて考え込む。
「それならこうしない? 婚姻届を書いて、要くんが弁護士になるまで大切にしまっておくの。でも私が、『もう寂しくて限界!』って思ったら、区役所に出しに行く。私が寂しくなるのが先か、要くんが弁護士になるのが先か、賭けるわよ」
ふふっといたずらっ子のように笑う絵美梨に、要はしばし驚いてから、もう一度両腕で絵美梨をギュッと抱きしめた。
「ありがとう、絵美梨。俺は絵美梨を絶対に寂しがらせない。先に俺が弁護士になる方に賭ける」
「うん。がんばってね」
「ああ。だけど絵美梨、婚姻届を書く前にやることがある」
「え?」
要はそっと身体を離すと、絵美梨の両手を握る。
「絵美梨。身分の違いも気にせず、俺を真っ直ぐに見つめてくれてありがとう。誰よりも心がきれいで、優しくて可愛い絵美梨のことが、俺は愛おしくてたまらない。必ずこの手で一生守っていく。だから絵美梨、俺と結婚してほしい」
絵美梨は息を呑むと、こらえ切れずに涙を溢れさせた。
「私も要くんが大好きです。小さい時から、いつもそばで守ってくれてありがとう。大きな怪我を負ってまで私をかばってくれて、本当にありがとう。あなたがいてくれたから、今の私があります。あなたのいないこの先の人生なんて、考えられない。ずっとずっと、そばにいさせてね」
「ああ。これまで抑え込んできた想いを、全部絵美梨に注ぐ。俺は心から君を愛している」
「私もです。ずっとあなたに伝えたかったの。誰よりも大好きって」
それ以上の言葉はいらない。
二人は互いに抱きしめ合い、心を重ねて、幸せを噛みしめていた。



