ただそこに愛があるなら

「お誕生日おめでとう、要くん」

2月7日の要の誕生日。
サロンの営業時間が終わると、二人は車で例のグランメゾンにやって来た。

「ありがとう、絵美梨。忙しいのに時間を作ってくれて」
「ううん。それより今夜もアルコールを飲まないの? 車は代行を頼めばいいわよ」
「いや、帰ったら勉強しないといけないから」
「お誕生日なのに?」
「ああ。1日も無駄に出来ない。最短でも、弁護士になるには3年ほどかかるから」

そんなに?と、絵美梨は驚く。

「今年はまず、予備試験を突破する。そうすれば来年の司法試験にチャレンジ出来るんだ。司法試験に合格すれば、1年ほど司法修習を受けて、最後に修習修了試験をパスして晴れて弁護士として登録される。俺は必ず最短ルートで弁護士になってみせるよ」

決意を込めてそう言う要に、絵美梨もしっかりと頷いた。

「私も全力で応援します。サロンのことは気にしないでね」
「ありがとう、絵美梨。だけど時々こんなふうに二人の時間をもらえたら嬉しい。パワーが満たされるから」
「ふふっ、私もです」

幸せを噛みしめながら、二人で束の間のデートを楽しむ。

バースデーケーキを食べると、絵美梨が要にラッピングされた長方形の箱を差し出した。

「はい、私からのプレゼント」
「ありがとう。開けてもいいか?」
「うーん、ちょっとだけならいいよ」
「ははっ! じゃあ、ちょっとだけ」

要はリボンを解き、包みを開くとそっとフタをずらしてみた。

「えっ、これ!」

入っていたのは、司法試験受験生が愛用することで有名な高級ボールペン。

論文式の試験ではインクの筆記具のみ使用可能で、膨大な量の文字を書くことから、手が疲れにくく、乾きが速いものが人気だった。

「絵美梨、わざわざ調べてくれたのか?」
「うん、そう。シックで要くんの好きそうな色でしょ? それにね、名前も刻印したの」
「え、ほんとだ」

ダークネイビーの艷やかなボールペンに、【K.Hiyama】と彫られている。

「これなら落っことしても安心でしょ? あっ、ごめんなさい! 違うの、大丈夫、落ちないから」

慌てふためく絵美梨に、要は笑い出す。

「そんなこと気にしなくていい。絵美梨がくれたこのボールペンさえあれば、鬼に金棒だ。心強いよ」
「ふふっ、リフィルのインクもたくさん入れておいたからね」
「ありがとう、絵美梨。必ず合格してみせる」
「うん!」