ただそこに愛があるなら

「お嬢様、実はお話ししたいことがあります」
「なに、急に改まって。どうしたの?」

要が真剣に切り出すと、絵美梨は不安そうな表情を浮かべる。

「今後の私のことについて、お願いがございます。これまで常にお嬢様のそばにいて、サロンの仕事にも携わらせていただきました。美容関係にも疎い場違いな私を受け入れてくださって、本当にありがとうございました。私はお嬢様のお仕事ぶりに感銘を受け、多くのことを学ばせていただきました」
「ちょ、ちょっと待って、緋山。あなたまさか……」

焦ったように要の顔を見上げ、絵美梨は恐る恐る尋ねた。

「サロンの仕事を、辞めるつもりなの?」

要は黙ったまま、肯定も否定もしない。
絵美梨はますます身を乗り出した。

「ねえ、どういうことなの? まさか本当に、私のそばからいなくなるの? そんなのだめよ! あなたがいなくなったら、私……」
「お嬢様、私はあなたをこれからもお守りする。そのことに変わりはありません」
「それなら、一体どういうことなの?」
「あなたの送り迎えは、変わらず続けます。ただ、サロンの仕事からは手を引かせてください」
「それは、なぜ?」

必死に問いかけてくる絵美梨に、要は落ち着いて口を開く。

「司法試験を受けるからです。サロンの顧問弁護士になる為に」
「えっ……」

絵美梨は、なにを言われたのかとばかりに聞き返した。

「弁護士って、あなたが? サロンの為に?」
「はい。これから大阪にも名古屋にも支店を出せば、それだけ色々な問題を抱えることになるでしょう。その時に私は、あなたのそばであなたを守りたい。口先だけでなく、きちんと法に基づいてあなたをお守りします」

要は絵美梨に言い聞かせるように、ゆっくりと説明する。

大学の法学部を卒業しているが、ロースクールには行っていない為、まずは司法試験の予備試験を受けること。
予備試験を突破すれば、司法試験の受験資格を得られること。
これまでサロンの顧問弁護士と一緒に様々な問題に対処してきたことから、法律の勉強は常にしていたこと。

「予備試験の合格率は極めて低いのですが、これから必死に勉強して、必ず合格してみせます。ただ、生半可な勉強で受かるほど甘い世界ではないので、サロンの仕事との両立は避けたいのです。どうか私のわがままをお許しいただきたい。お願いします」

頭を下げる要に、絵美梨はしばし口をつぐむ。
やがてキリッとした表情で頷いた。

「分かったわ。あなたが勉強に専念出来るよう、環境を整えます」
「ありがとうございます」

要がホッとして肩の力を抜くと、絵美梨は念を押すように尋ねる。

「これだけは確認させて。これからも私のそばにはいてくれるのよね?」
「はい、もちろんです。サロンへの送迎もこれまでと変わりません」
「良かった。それなら私は、全力であなたを応援します。サロンに着いたら、あとは別室で勉強してもらって構いません。大阪では、サロンの隣のワンルームマンションにあなた専用の部屋を用意します」
「ありがとうございます。ご期待を裏切らないよう、必ず合格してみせます」
「ええ。こちらこそありがとう。サロンの為に顧問弁護士になってくれるなんて、とっても心強いわ。あー、それにしても驚いちゃった。誕生日にショッキングな話をされるのかって、泣きそうになったわよ」

そう言って絵美梨は、目尻に浮かんだ涙を照れたように指先で拭う。

「まったくもう、誕生日にとんだ爆弾をプレゼントされたのかと思ったじゃない」

拗ねたように見上げてくる絵美梨が可愛くて、要は目を細めた。

「驚かせてしまってすみません。改めて、お嬢様に誕生日プレゼントを」
「えっ、なに? また爆弾?」
「ふふっ、今お持ちしますね」
「ヤダ! これ以上はやめて……って、え?」

目の前に差し出された色とりどりのバラの花束を、絵美梨は呆然と見つめる。

要はひと呼吸置くと、意を決して絵美梨に語りかけた。