ただそこに愛があるなら

ホテルのスイートルームに戻ると、時刻は17時を回っていた。

ソファーに座って資料を眺めている絵美梨の前に紅茶を運んでから、要は尋ねる。

「お嬢様、夕食はいかがなさいますか?」
「そうね、ルームサービスにしようかしら。落ち着いて食事出来そうにないから。緋山もそれでいい?」
「もちろんです。では19時頃に届けてもらうようにオーダーしますね」
「ええ、お願い」
「かしこまりました」

要はフロントに下りて支配人に夕食の手配を頼むと、フラワーショップにも立ち寄ってから部屋に戻った。

19時ちょうどに食事が運ばれてきて、要は絵美梨に声をかける。

「お嬢様、お食事のご用意が出来ました」
「ありがとう」

ソファから立ち上がってダイニングテーブルに近づいた絵美梨は、並べられたフレンチのフルコースに「美味しそう!」と目を輝かせた。

二人で向かい合って座り、乾杯してから早速料理を味わう。

「はあ、疲れが吹き飛ぶわ。パワー満タン! って感じ」
「ははっ、それは良かったです。デザートもありますよ」
「やったー! なにかしら、わくわく」
「こちらです」

要が大きなプレートにかぶせてあったカバーを持ち上げると、絵美梨は身を乗り出して覗き込む。
次の瞬間「えっ……」と言葉を失った。

生クリームとイチゴのホールケーキに描かれた【Happy Birthday! EMIRI】の文字を見て、ようやく絵美梨は気づく。

「あっ、私、誕生日?」
「またお忘れでしたか? お誕生日おめでとうございます、お嬢様」
「えっと、ありがとう、緋山。よく覚えてたわね」
「もちろんです。お嬢様こそ、よく毎年お忘れですね。何歳になられたかは、お分かりですか?」
「そこまでボケてないわよ。えーっと、確か……」
「考えないと分かりませんか? 26歳です。すっかり大きくなられて」

すると絵美梨は唇を尖らせた。

「緋山こそ、じいやみたいじゃない。私をいつまでも子ども扱いして」
「とんでもない。お嬢様は聡明で美しい大人の女性です」
「えっ、ありがとう。なあに? 上げて落としてまた上げて、って感じね。今日の緋山は、いつにも増して変だわ」

要は苦笑いしながら、ケーキを切り分ける。

「どうぞ。今紅茶を淹れますね」
「ありがとう」

ソファでケーキと紅茶を味わい、嬉しそうに笑顔を浮かべる絵美梨に、要も思わず微笑む。

だが気を取り直して、絵美梨に向き直った。